きょうだい物語〜レオリオ後編〜


「おいっ、どうしたんだ!」
他の者がいきなりのことに驚いていたが、
はそんなことは何もかまわずに一方向に走り去っていった。
何の脈絡もなかったはずだ。
そう思うゴン、キルア、クラピカは不思議そうに
が去っていった方向を遠目で眺めていた。

その後、比較的早めに気を取り戻したレオリオが問うた。
「ゴン、何か悲鳴とか聞こえなかったか?」
「え、あ、えっと、女の子の悲鳴がかすかに聞こえたけど。」
「それだ!おい、どっちだそれ。」
「こっち!」
「案内してくれ!」
そう言うと、レオリオはゴンが指した方向へ走り出した。
ゴン達もとりあえずはそれについていった。
「ねぇレオリオ、一体何!?」
「あぁ。姉ちゃんな、ああいう悲鳴聞きつけるの得意なんだ!」
「どういうことだ?」
レオリオの返事にクラピカが横から口を挟む。
「よく、でしゃばって人助けをしたがるんだよ!」

「どうした?」
泣き叫ぶ女の子に視線を合わす
「…ひっく、ひっく。」
は穏やかな表情で、その女の子の顔を覗き込んだ。
「ん?」
「うぇ…アタシの…ふぅせ…ん。」
上を見ると、やや大きな木に引っかかりながら、はためいている風船が見えた。
「(あれか…)よし、私が取りにいこう。」
そう言い、女の子の頭を軽く叩くと、
は木の方へ向かい、その木の枝に足をかけた。
(登れないほどじゃ…ないな!)

「ここだよ!」
ゴン、レオリオ、クラピカ、キルアの4人が泣いている女の子のところへとついた。
「姉ちゃんは…と。」
はすでに木の上にいた。
「おい…。」
別に女が木登りをするなとは言わないが、
レオリオはどことなく不安な表情を抱えていた。
クラピカもそれと同じような心境、ゴンは「わぁ」なんて言っている。
一方、キルアは無言での行動を見つめていた。
「…おもしれー女。」
少ししての手が風船の糸をつかんだ。

風船をこの手に収めたことを確認し、一息つく。
木の上で体勢を立て直すとはそこから地面を見下ろした。
…意外と高かった。
それでも、まさか降りないわけにはいかない。
腕を木にしがみつかせて、足を木から離す。
下に足を伸ばせば、下の枝に足が届…かなかった。
「………。」
もう一度。今度は足を伸ばしたまま、ばたつかせてみる。
…やはり届かない。
は、とりあえず元通りに登りなおすと、一つ息を吐いた。

「姉ちゃん…。降りられねぇのか…。」
ややあきれ顔でつぶやいたのはレオリオだった。
「足が付かないなら飛び降りれば良いんじゃねーの?」
横からキルアが口を挟んだ。
「…姉ちゃんの運動神経は(悪くはないが)一般人レベルだ。」
レオリオは一つため息を吐くと、つかつかと木の近くへ歩いていった。
上を向いて、木の前で両腕を広げる。
「姉ちゃん!飛び降りろ!俺が受け止めるから!」
しかしはそれを聞いても、何一つ動かなかった。
「ヘマなんかしねぇって!」
レオリオの叫びはに届いていた。
しかし、それでも飛び降りる気にはなれなかった。
(下手をすると…風船が割れるな。)
この木は枝が多い。
下手に飛び降りれば、風船が木に引っかかって割れる恐れがある。
だからは飛び降りる気になれなかった。

「姉ちゃん…?」
無言で木を見下ろす
自分の姉が木の上で動かないことにあせるレオリオ。
そのまま静かに時は流れた。

タン…。
の隣でひとつ軽快な音が鳴った。
振り向くと、いつの間にかすぐそばにキルアの姿があった。
また、いつもどおりに空気が流れ始める。
「風船、割りたくなけりゃかかえときな。」
「え。」
その瞬間、風を切る感覚が全身にまとわりついた。
「ぃ、…ぅわぁっ!」
キルアがを抱きかかえたまま飛び降りたのだ。

どっ、どっ、どっ、どっ…。
着地した直後、は胸を押さえたまま座り込んでいた。
まさか、あんなところから飛び降り(させられ)ることになるなんて
全く予期しなかったことだ。
正直、とても驚いた。
けれど風船は割れていない、それだけでも御の字だ。
風船はが座り込んでいる間に、キルアから女の子に渡されていた。
「お兄ちゃん、ありがとう。」
女の子はの方へも顔を向けた。
「お姉ちゃんもありがとう。」
女の子の無邪気な顔がの印象に残る。
(ありがとう…か。)

女の子が立ち去り、再びキルアとが向き合う。
生意気な少年、キルア。
表面上の認識は今でもそれと同じだけれども。
ただ生意気なだけでもないようだ。
はキルアの目を見ると、美しい笑みを振舞った。

「ありがとう。」

キルアはそれに一瞬、時が止まったように感じた。
(………。)
何でそう感じたのかはまだはっきりわかったわけではない。
けれど、なんとなく心地がよい。
キルアは心に笑みをたたえると、足を一歩前に出し、歩き始めた。
そして、すれ違うときに素早くのほほに口付けを落とした。
「礼ならこれくらいしろよ。」
は少しの間目を丸くしたが、気はすぐに取り直した。
そしてレオリオのところまでつかつかと歩いていった。

「レオリオー。」
あくまでも軽快な声で、堂々とした声を出す。

「消毒ー。」

『なっ!?』
レオリオとキルアの声がハモった。
に愉快じみた笑みが宿る。
「――冗談だ。どうせやってもらうのなら、クラピカかゴンにするわ。」
「えっ。」
それを聞いて顔を赤らめるゴンとクラピカ。

どうやらレオリオの姉は一筋縄でいく人物ではないようだ。


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あとがき

レオリオはともかく、キルアに寄っているのは紛れもなく趣味です。
4人全員書ききるのはきつかったので、こうなりました。



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