きょうだい物語〜レオリオ前編〜


前髪をかき上げ、空を見上げる。
「さて、どうしようか…?」
街の中で立つ少女。名は
その後ろからは、風が強く吹きぬけていた。

キルアは一人で街の中を歩いていた。
特に目的のない、単なる散歩。
急いだ気持ちもなく、ごく緩やかな歩調で街を歩いていた。
ふと、声をかけられた。
「そこの若人。」
女の声にしては、変わった言葉遣いだな。
そう思い振り向くと、キルアの目に
自分より少し小さいくらいの女…いや、少女の姿が映った。
「何?」

「あぁ、すまぬがつまらぬことをおききする。
背が高く、外見は30代くらいだが
自称10代と言い張るサングラスの男を見なかったか?」

ワンブレスでつむがれた言葉に、キルアの目が丸くなった。
(外見は30代くらいだが自称10代ってオッサンくらいしかいないよな…?)
キルアは少し考えたが、やがてそれはどう考えても同じ結論にしか達しないと思った。
「あーそれ、多分知ってる。レオリオって言うんだよな?
…あれ、リオレオだっけ?」
「レオリオだ。知っているのか?」
「あぁ。…会いたいのなら案内してやっても良いぜ。」
キルアはレオリオを探しているという少女に少し興味を抱いた。
そんなわけでキルアはをレオリオのところへ案内することになった。
「そういえばレオリオとはどういう関係なんだ?」
軽くうつむいたの表情がほんの少し曇る。
「…身内だ。」
「マジ!?」
背が低く典型的な童顔、しかし雰囲気が少し大人びていることから
キルアはを自分と同じか、少し上の年齢くらいだろうと判断した。

「さてと…この辺りに集合かけたはずなんだけど…あ、いた。」
レオリオは少し離れたところの店で店主と話をしていた。
その近くではゴンとクラピカが、苦笑しながらレオリオを眺めていた。
店主の笑顔が引きつっているところからして、
おそらくものすごい値切りをレオリオが展開しているのだろう。
キルアはそれを見つけると、レオリオの方に軽やかに駆け寄った。
「おっさーん。」
「何だよキルア。俺の神業的値切りを間近で眺めたいのか?」
「んなもん興味ねぇから。それより客人がきてるぜ。いもーとさん。」
「あ?俺に妹なんかいね…」
レオリオは「妹」と聞いたときは無粋な顔をしたが、
キルアが連れてきた少女の姿を見ると、すぐさまそれは驚いた表情に変わった。

「…姉ちゃん!?」

「はぁっ!?」 「えぇ!?」
お子様二人の声が、このとき見事に重なった。
「ありえねぇ!!」
キルアがそう叫んでいたが、
はそんなことは気にもせずにレオリオの元へ歩いていった。

「姉ちゃん、何でここに!?」
「仕事で近くに来てな。お前も近くにいるらしいから探してみた。」
「連絡ぐらいしろよ!」
「すまぬな。」
二人の会話がひと段落すると、は驚いている3人の顔を見回した。
射抜くような視線。
クラピカは目を見開いたままなにも言えず、
ゴンも似たような感じ、キルアはなぜか目をそらしていた。
クラピカはがこちらを見ているのに気づくとはっとした。
(いけない、何を呆けているのだ…。)
クラピカは自分の間の抜けた反応に少し思い悩んだ。

「やっぱりありえねぇ…。」
キルアは一度は目をそらしたが、やはりのことが気になった。
(だってよー、見た目は結構かわいい女だし)
とりあえずレオリオの身内であることを頭において、軽く観察してみた。
しかし思い浮かぶのはやはり同じような印象ばかりだった。
(あの顔でオッサンの姉貴はなぁ…。)

「ていうかキルア。お前、何ぶつぶつ言ってんだよ。」
いつの間にかキルアの近くに寄ったレオリオが
不機嫌さを含んだ態度でキルアに声をかけた。
どうやらいくらか口に出ていたようだ。
「だってさありえねぇだろ?」
キルアはレオリオの言葉を引き金にしたのか次々と文句をレオリオにぶつけた。
「お前らどう見ても姉と弟に見えねぇ。」

「10代と20代っての逆だろ!」とか。「オッサン、20代でもおかしいし。」とか。

「下手したら親子、せいぜい兄と妹が良いセンだって!」
「悪かったな…(怒)。」
レオリオは怒りがふつふつと沸いてはいたものの、
実際、共に街を歩くとそう言われたことが何度かあったため、
反論する言葉がなかった。
「あー、そういえば、この前一緒に買い物に行ったら、
『妹さんの方がしっかりしてますね』と言われたな。」
これはの言葉だ。
「姉ちゃん…。」
そのしっかりとした口調にレオリオはうなだれた。

「あの…」
やっと気を取り戻したクラピカにより、自己紹介が開始された。
「…クラピカと申します。私たちはハンター試験で出会ったのですが、
レオリオは…お世話になったというよりは、なんといいますか…お世話したと…。」
「オイコラ。」
「正直な人だ。」
レオリオが文句を言ったが、はなぜか笑みを浮かべていた。
妖艶さを含む笑み。
そしてゴン。
「俺、ゴンって言います!12歳です!」
ハキハキとした声と曇りのない大きな目に、 の心が射抜かれた。
「レオリオ!この子、かわいい!――かわいい!!」
は目を一瞬丸くしたあと、笑顔でゴンの頭を抱きかかえた。
「うわぁ!」
ゴンはいきなり視界が暗転したことと、その感触に驚き、あわてた。
ちなみにキルアはレオリオのところに着く前に、
すでに自己紹介を済ませていたので一言で終わった。

ここで、レオリオはふと気にかけたことがあった。
(姉ちゃん、…キルアのこと気に入ってねぇよな。)
雰囲気がわずかにそう語っている気がするのだ。
おそらく身内だから感じ取れたのだろう。
(…クラピカみたいな礼儀正しい奴は好きなほうだし、
ゴンみたいな素直でかわいい人間は大好きだ。
キルアみたいな生意気な奴は…俺も生意気だったときがあったからな…。
そのときは確か…姉ちゃんに制圧されていたような。)
それを思い出すとレオリオは少しげんなりとした。
そして何より確信しているところがレオリオにはあった。
(姉ちゃん、年齢について言われるの本気で好きじゃねぇんだよ!)
ほんの一瞬、冷たく射抜くようなの視線が
キルアに向いているのをレオリオは感じとってしまった。
軽く血の気が引いた。

そのとき、が突然走りだした。


+---後編へ---+


あとがき

姉弟らしくないかもしれませんが、初の姉弟ものです。
レオリオに「姉ちゃん」と言わせてみたかったのです。



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