次のクラピカによる運転特訓はあれから2ヵ月後だった。 「あれから車は運転しているか?」 「うん、週一回やってる。」 「計八回か…。やはりゴンたちに協力してもらったのか?」 「うん、ゴンとキルアに二回、レオリオに二回ね。」 「残りは?一人は危険だと思うが。」 「あ〜、あとはヒソカに三回、イルミに一回。」 チャレンジャーだ、そんな言葉がクラピカの頭の中をよぎった。 もちろんこの場合、チャレンジャーなのはの方である。 車の中という狭い空間で、ヒソカやイルミと二人きりで過ごしきったのだから。 「どうだったんだ?特にヒソカとイルミが気になるが…。」 「えーとね、ヒソカは『キミ、面白い運転するねぇ。』て言ってた。」 「……………(何をやったんだ)。」 ヒソカが「面白い」と言うからには何か、これから共に車に乗るには、 あまり知りたくないことをやったのだろう。 「イルミがね、お手本見せてくれてかっこよかったんだ! すごい速いのにすいすい行けるの!」 「そうか…でもおまえはマネするんじゃないぞ。」 「うん。」 の話は続く。 「で、ゾルディック家へ連れてかれた。」 「な…大丈夫だったか!?」 クラピカはの両肩を少し強くつかんだ。 「大丈夫だったよ。 イルミが『俺のものだから手出ししないでね』って言ってたから。」 「あいつ…。」 とたんクラピカの声が低くなった。 嫉妬の炎が陰ながらメラメラメラメラ燃えている。 そのうちに眼が紅くなりそうだ。 一方、は何とものんきにゾルディック家での話をし続けた。 いい加減、運転特訓に入れ。 「それでは、今日は一般道路のみで行くぞ。」 「その方が助かります…。」 「目的地は国立図書館。案内はする。」 「イエッサー。」 「普通の返事にしてくれ。では、出発。」 「ゴー!」 車のスピードが安定してから、クラピカはの横顔を見た。 やはり真剣な表情をしている。 運転に集中しているのは良いのだが、そのくせ他方向に気が向きづらい。 が車を運転しているときは運転にほとんど、 たまに同伴者に気を向けるくらいであろう。 しかし視線は常に運転のために動く。 どんなにクラピカがを見ても、 運転中にがクラピカを見ることはほとんどないのだ。 (まぁ、しょうがないことだけどな。) そうわかりつつも、クラピカは心の中でため息を吐いた。 ふとが声を出した。 「ん、ここ駐車が多いな…。」 窓の外を見れば、車道の端に駐車している車がたくさん見えた。 は困った顔をしながら、やや右寄りに走っていた。 「障害物がある場合は対向車を見て、すれ違うタイミングを調節するんだ。」 「習ったけど、いまいちうまくいかない…。」 ここは市街地、道路は大きめ。 幸いなことに、一台くらい駐車車両があっても 通り抜けるのに難しくはなかった。 少し経つと道路が込んできた。 クラピカは特訓の名の下に、 少しくらいは難しいコースを入れるつもりだった。 そのため、これは良い機会だと思った。 「近道をしても良いか…?」 「あ、いいよ。」 「じゃあ、二つ目の道を左…な。」 「はい。」 そして車は住宅地へと入っていった。 その数分後、最難関が出現した。 「ひいぃっ。」 は先ほどまでより狭くなった道を、不安な顔つきで進んでいた。 少々狭路であろうと、自分の車のみであれば何とか進める。 はそんな意識で、動揺するのをある程度は防いでいた。 しかし目の前に駐車車両が出現した。 やや狭い道路+駐車車両=相当狭い道。 はすぐさま混乱しだした。 「クラピカ!どうしよう〜。」 「おちつけ。とにかくゆっくり慎重に進め。」 クラピカは慎重にの部分をやけに強調した。 「は…い…。」 は車をごくゆっくりと難関ポイントへ進入させた。 「ひぃ…いやぁ…。」 悲鳴だけ聞くと変な意味に疑われかねないものだったが、 当の本人はそれどころではなかった。 クラピカもその震えた声を聞いていると、思わず焦りが出てきた。 「クラピカ、左大丈夫?」 「あぁ。…あ、もう少し右行けるか。」 左に電柱があり、このままいくとぶつかりそうだった。 「うん…。あっと。」 「右行きすぎだ!」 「ごめん!」 そう言いがハンドルを少し左に回すと、今度は車が左寄りになった。 ただいま、左の壁すれすれ。 「うわっ。」 「ぃやあぁ!」 ……………。 「はぁ、疲れた…。」 「私もだ…。」 あれから車は瞬間的に左右に小刻みに揺れ、とても不安定に動いた。 それでも何とかすり抜けたことにより、 二人とも全身にまとった冷や汗が蒸散されるのを感じた。 「ええと、次どっちだっけ…。」 「あぁ、とりあえず大きい道路に出ような…。」 目的地着。 「ここかー。」 やっと目的地へとつき、はほっと胸をなでおろした。 クラピカは窓の外を遠い目で眺めていた。 その後、駐車は危なげながらも、 クラピカの指示により、何とかスペース内に車を収められた。 本当の息抜きはこれから始まる。 「クラピカ。」 「何だ?」 「今度はクラピカの運転で遊ぼうね。」 …少し心が動いた。 クラピカはてっきり「また特訓してね」とでも言われるかと思っていたが、 その予想とは違ったからだ。 「…ほら、いつも私の運転じゃ安心できないでしょ…。」 そしてクラピカはその照れくさそうな物言いのを見て、微笑んだ。 (これはデートのお誘いと取っていいのか、 おそらく気づいていないのかもしれないが…。) 「あぁ。もちろんいいぞ。」 (それでも…いいか。) ---END--- |