12月。 街はその時期特有のさまざまな飾りに彩られ、美しい音楽が流れる。 人はせわしなく歩いたり、走ったり、ときおり立ち止まって雰囲気に浸ったり。 声、足音、物音など…全体的ににぎやかな雰囲気を感じさせる。 そんな雰囲気はどこへやら。 山奥の暗黒の地、といえば一見大げさなフレーズに聞こえるかもしれない。 しかし実物を見れば、それがしっくりと来るここ「ククルーマウンテン」。 「ゾルディック家」…その中の一室。 窓の外をぼんやりと眺めては、ときおり憂鬱そうにため息をはく少女がいた。 「。」 部屋の中にいる人物に声をかけたのはイルミ。 ゾルディック家の長男での兄だ。 「イルミお兄ちゃん…。」 の振り向いた顔はどことなく不安気だった。 「またキルのことを考えているのかい?」 「うん…。」 はゾルディック家の長女であり、キルアの妹だ。 その性格と姿は誰からも愛らしく思われ、 基本的に親兄弟誰とでも仲良く接することができる。 ただし、その中でもキルアは格別。 闇に染まりつくされた他の者とは違い、 キルアとはその雰囲気に光を持つ。 合うのだ。 深い闇の中で光を見る、この二人は。 イルミはのベッドに腰を下ろした。 「キルも早く帰ってくればいいのに。」 「うん…。」 イルミの口調には「どうせ無駄なんだから」という意味合いが含まれていた。 はその意味を知ってか知らずか、 うつむきながらただそうつぶやいた。 キルアが家を飛び出して悲しんだのは家族皆一緒。 しかしそれに今も葛藤しているのは一人。 しばらくの間、沈黙が続いた。 「なら…キルアに会いに行くかい?」 ふわりと耳に届いたのはイルミの声。 あまりにも甘美な言葉。 「でも…っ。」 振り絞るような声だったのはがそれに戸惑っているからだろう。 思うのだ。 子供心にも、大切な兄のことだから。 キルアお兄ちゃんの望みなら、キルアお兄ちゃんが幸せなら、 私は邪魔をしてはいけない…と。 「クリスマスパーティは25日にしよう。」 「え…?」 顔を上げ、きょとんとしてしまったにイルミはつらつらと話し続けた。 「そして24日にキルアに会いに行こう。…会いたいのだろう?」 その溶けてしまいそうな言葉には惑った。 家族で過ごしたクリスマス。 キルアとケーキを口いっぱいにほおばって笑いあったあのとき。 みんなみんな楽しそうだった。 は近づくそのイベントをキルアと過ごせないことを一番悲しんでいた。 うつろなまぶたの裏には、ずっとキルアの笑顔が焼きついて、離れなかった。 「まさかキルアがに会いたくないはずはない。 お前たちは俺ら兄弟の仲でも一番仲が良かったんだから。 …聞かせよう。25日のパーティに、親父たちにキルアの話を。きっと喜ぶ。」 しゅわしゅわっとラムネのようにイルミの声がに染み込んだ。 は目を見開いたまま少しの間ほうけていたが、 やがてふんわりとした笑顔をイルミに見せた。 「…うん!ありがとう、イルミお兄ちゃん。」 イルミはそれを聞くと目を細めての髪をなでた。 イルミは知っていた。の悲しみを。 最愛の妹が悲しむ姿はとても心苦しい。 だからそれを緩和してやれる最良の方法を実行しようと思った。 それは無理やりキルアを家に連れてくるのではなく、 ただをキルアに会わせること。 「キルアの居場所…はヒソカにでも聞けばわかるか。」 12月24日朝。 すでに白銀の世界と化していたゾルディック家を出て、 二人はキルアのところへと歩いていた。 「プレゼントは用意したかい?」 「うん。」 「ヒソカの情報によると、 キルアはゴンと修行に明け暮れているみたいだからね。 クリスマスとか忘れているかもしれないよ。」 「え!?」 その言葉には少しショックを受けたが、 それでもキルアに会いに行くという嬉しさに覆われているため、 次の言葉が出たころには調子が戻っていた。 「だから俺たちがプレゼントを届けるんだ。」 「まるでサンタさんだね。ならサンタの服とか用意すればよかったかな?」 「あ、それもよかったかな。」 弾んだ声に木漏れ日のような笑顔、 白い吐息がときおりおぼろげにを映す。 それがイルミを見上げてる。 イルミは今このときがすごく幸せだった。 まぁ、ごくごく限られた人以外は その感情を表面から理解することはとても難しいことだけれど。 「イルミお兄ちゃんもうれしそうだね。」 「ん。久々にキルアに会えるからね。」 二人は顔をあわせると、よく晴れた青い空を仰いだ。 「ヒソカの話によるとこの辺りなんだけど…。」 二人は森の中できょろきょろと辺りを見回していた。 森というだけあって木々が多く、遠くまでは見渡しづらい。 だからなかなかキルアを見つけられない。 「あ。」 ふとが何かに反応したように声を上げた。 「どうした、?」 は言い知れないといったくらいの笑みを浮かべていた。 「キルアお兄ちゃんの声が聞こえた♪」 「どっち?」 「こっち!」 そういうとはすぐに自分が指をさした方向へかけていった。 「まったくもう…。」 イルミは少し優しい気持ちを抱えながら、軽快に走るの横に並んだ。 少し進むと、木々の先のちょっとした空間にキルアとゴンが見えた。 はキルアたちがはっきりと見える位置までに着くと 一度立ち止まって、息を整えた。 そして再びキルアに向かって一直線に走り出した。 「ん?キルアあれ…。」 ゴンはが走り出す前に不意に現れたその少女に気づいた。 しかし突然その少女がこちらへ突進してきたので、 二人は少しの間、言葉を失った。 「キルアお兄ちゃあぁーーーん!!」 揺れてさらに艶めく髪、太陽のような満面の笑顔、 高くよく響く声、小さくも内に力強さを秘めたその姿。 「あ…!?」 キルアは驚きで目を見開きながらも、 勢いよく自分に飛び込んできたをしっかりと抱きかかえた。 「!どうしてここに…。」 「お兄ちゃぁん、キルアお兄ちゃぁん…。」 は感無量の表情でキルアに擦り寄っていた。 甘い香りがキルアの鼻をくすぐった。 「…イルミ。」 一方、ゴンはという名の少女を気にしてはいたが、 すぐにその後方にイルミを見つけてしまった。 少女がキルアとたわむれている間、ゴンは怪訝な目でイルミを見つめていた。 「やぁ、久しぶり。」 「兄貴!」 キルアもイルミに気づき、驚きの表情でイルミに顔を向けた。 「なぜここに?」 「がね、キルアに会いたがっていたから。 …今日はクリスマスイブ。サンタさんになろうと思って。」 「あ、ぁ、そうか…。」 キルアはを支え直してから、を見下ろして微笑んだ。 「サンキュー、な。」 ---後編へ--- |