お兄ちゃんとクリスマス 〜後編〜


「じゃ、俺は仕事があるから。
…しばらくしたらを迎えに戻るよ。」
「え?」
「じゃあね。」
予期しなかった言葉にキルアは少し驚いた。
(…いつもこの時期には仕事入れてなくなかったか?)
そんなキルアを尻目にイルミは胸元まで手を挙げてから、
後ろを向き、背後に風を作って姿を消した。
「兄貴…。」

「あれぇ?イルミお兄ちゃんは?」
どうやらキルアにしがみつくのに夢中だった
自分の上の兄が去ったことに気づいていなかったようだ。
キルアは少しの間遠い目をしていたが、
の声を聞いた瞬間、気を取り戻した。
は大きな目でキルアを見つめていた。
「あぁ、兄貴は仕事があるんだってさ。しばらくしたら迎えに来るって。」
「そっかぁ。イルミお兄ちゃん大変なんだなぁ。」

話はひと段落つき、
キルアはゴンが二人を伺っているのか、
なにかそわそわしているのに気がついた。
「ん、あぁ。こいつは。俺の妹。」
「えっと、といいます。キルアお兄ちゃんがお世話になってます。」
「俺はゴン!よろしくね。」
ゴンはの、イルミともカルトとも違う、
その明るく、ふんわりとした雰囲気に好感を抱いた。

がお辞儀をしたときに、一瞬、ごくわずかに
悲しそうな顔をしたことは、この場にいる誰も気づいていなかっただろう。
顔を上げる直前にはすでに笑顔だったのだから。


「さぁて、せっかくが来たんだ。
おいゴン、俺たちがどのくらい強くなったか見せてやろーぜ!」
「うん!」
それを聞くとは手近なところに腰を下ろして二人を見上げた。
「それじゃ、行くぜ。まずは俺から。」
キルアは身を構えると、精神を集中させて手のひらに念をこめた。
バチバチバチバチ…。
きらびやかな電気がキルアの手から放電される。
の目もそれのごとく輝いていた。
「おぉ〜。キルアお兄ちゃんすっごーい!」
「だろ?」
「うん!ビカビカだねっ。」
どうやらビリビリとピカピカを合わせた造語らしいが
きちんとキルアには伝わっているようだ。
その証拠にキルアは満足そうな笑みを浮かべていた。

「じゃあ、次は俺だね。」
ゴンは拳を胸の高さまで上げて、二人を見た。
そして数メートル離れたところにあったやや大きな木を見据え、
2.3歩分後ろの位置につく。
大きく息を吸って、止めると拳に念が集められた。
「じゃんけーん、グー!!
ドゴーン!!という轟音と地が唸るような振動が辺り一面に広がる。
そしてめきめきという音とともに木は倒れた。
は肌に風をびりびり感じながら、感嘆の息を漏らした。
「すごいねぇv…でもね。」
はそう言うと立ち上がってすでに倒れてしまった木に近づいた。
「ん…よっと!」
その大して大きくない掛け声とともにはその木を持ち上げた。
木が完全に起こされたのと同時にまた轟音が響いた。
「ふぁ〜。」
口をあんぐりと開けたまま、間の抜けた声を出したのはゴン。
は木に土をかけると、二人の方を振り向いた。
「よしっ。」
「お前なぁ…。」
キルアはそう言いながらも愉快そうに笑っていた。
ゴンは少しの間呆けていたが、やがての方を見てぱぁっと笑った。
どうやらのやさしさに感動してしまったらしい。

そしてパーティタイム。
「そういや俺らってクリスマスとかすっかり忘れてたんだけど。」
3人輪になって座ると、キルアが思い出したように言った。
「ケーキとかあるの?」
ずいいと顔を突き出したキルアはとても真剣な目をしていた。
「ふっふー。」
は得意気な顔で笑うと、
そばに置かれていたかばんを探り、四角い箱を取り出した。
「きちんとね、作ってきたんだ。」
二人の前に出された箱、それを開けると
キツネ色をしたパウンドケーキが姿をあらあわした。
『おぉ〜。』
「うちのね、シェフに習ったんだよ。」
感嘆するゴンとキルア。
まばゆくみえるそのケーキに二人は目を奪われた。
「おいしそー…。」
「て言うか早く食おうぜ!」
「ふふっ」
そんな浮き足立つ二人の反応を見ては小さな笑い声を漏らした。

そしてケーキを切り分けようとした。
「ナイフある?」
「あ、…忘れた。」
「しゃーねぇなぁ…。ほら」
キルアはナイフがないので代わりに自分の爪で切ろうとした。
しかしキルアの爪がケーキに触れようとする直前、はそれを制止させた。
「手、洗った?」
「………あ。」

「うっ…めぇー!!」
「ほんと!おいしいよ!」
「えへへー。」
ケーキを切り分けて、食するといっせいに歓声が上がった。
皆、笑顔でとても楽しい雰囲気。
まるであのときのような。
そう、キルアと共に笑いあうがここにいた。
久しぶりの、心からの幸せ―――。

しばらくしてイルミが戻ってきた。
「やぁ。」
「お兄ちゃん!」
明るい笑みが浮かぶとともに、はイルミのそばに駆け寄った。
の姿を確認すると、ぽんとその頭に手を置くイルミ。
「楽しかったかい?」
「うん!」
ひまわりのような笑みがそこにあった。

「じゃあ、もうそろそろ帰ろうか。」
その言葉をキーにの表情が一瞬固まった。
しかし、これはわかっていたこと。
たとえどんなにも願っていようと、いつまでもそばにいるわけにはいかない。
キルアお兄ちゃんの自由を奪いたくないから。
それに、イルミお兄ちゃんが私のために言ってくれたこと。
キルアお兄ちゃんに会わせてくれただけでもうれしいのに、
ここで今、悲しむわけにはいかない。
「―――うん。」
は穏やかな表情でそう返した。
心の中だけ雨あられ。

「そうだこれ、プレゼント。」
キルアの目の前に差し出される明るい色の袋。
キルアはそれに反射的に手を伸ばした。
「サンキュ。…あけても良い?」
「うん、いいよ。」
袋を探り、そこから出てきたのは、少し大きめのマフラー。
少し不恰好なところに手作りという感じがうかがえる。
「…すげぇ。」
キルアは口元を緩ませると、愛しそうにそのマフラーを抱きしめた。
「ありがとな…!」
ふわりとした空気が舞った。

「で、ゴンさんにもプレゼント!」
「え、俺にも!?」
ゴンは自分にまでプレゼントが用意されているとは思わず、
つい、素っ頓狂な声をあげてしまった。
「うん。」
その後、差し出された箱を手にゴンはふるふると打ち震えていた。
「俺、すっごいうれしいよ!ありがとう!」
喜んでいるゴンとキルアに、も満足そうな笑みを見せる。
極上のスマイルが3つ、そこにはあった。

「じゃあねー!」
「バイバイ。」
軽快な声、大きく振られた手にキルアとゴンも手を振って返す。
ゴンの元気な声を隣に、
キルアはやわらかく微笑みながら二人を見送った。
わずかに寂しさを感じながら…。
イルミとは帰っていった。

穏やかで、でも冷たい空気が流れる。
「行っちゃったね…。」
「あぁ…。」
少しの間、二人はぼんやりと前を見つめた。
ふと、キルアが何かを思い出したような声を出した。
「そういえばさ、お前、何もらったの?」
「え、うーん…」

「そういえばゴンには何をあげたの?」
森を歩き続けて数分後、イルミが純粋な疑問を問うた。
「んー、えっとね、通販で見つけたの!珍しいなって思って。」
このの言葉に答えがないことはわかっていたのだが、
イルミは、別に問い詰めることでもないと思ったため、
素直にあいづちをうった。
「ふーん、喜ぶと良いね。」
の顔がぱぁっと明るくなった。
「うん!」

一方、ゴン達は箱に入っていたものを見て、悩んでいた。
「ねぇ…これ何?」
「んー、わらで出来た人形?だな…(兄貴の趣味か?)。」
そんな箱に書かれていた文字は「ジャポン名産ナットウ・わら人形パック」。
ふと、うれしそうなの顔がよぎるも、
二人はやっぱりそのプレゼントに疑問を抱かずに入られなかった。

Happy Christmas?

---おわり---


あとがき

この小説、去年のクリスマスに完成せず、放置していたものなので、
書いてる時期が結構開いていたりします。
部分部分で調子やキャラが変わっていたらすみません。
なんにせよ、何とか出来たー!



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