ライバル


十二支高校野球部一年マネージャー、
新入生の割に、マネージャーとしての手際はよく
(でも時々ドジッ気、そこもかわいい) 部員の人気も高い。
愛らしい笑顔をたたえ、部員に接する様に好感を持てる女の子だ。

僕はとても晴れやかな日にくんと買出しに出かけた。
学校では虎鉄くんたちが彼女の買出しに付き添うと
妙に彼女にベタベタしていた。
しかしそこは部長権限で皆に練習メニューを言い渡し、
僕が買出しに付き添うことにした。

そこで公園に立ち寄った。
事の起こりはくんがアイスに見とれていたこと。
僕はそんなくんがあまりにもほほえましくて思わず口に出した。
「アイス、買おうか?」
「良いんですか!?」
そのときのくんの表情と言ったら
いきなりつけられた電灯のごとく、ぱぁっと明るかったんだ。
もぅ、まぶしすぎるよ…。
「ありがとうございます、牛尾先輩!」

というわけで僕たちは今、 公園のベンチに座って、アイスを食べている。
なんだかデートみたいで「幸せ」だ。
「おいしい…v」
「そうだね。」
ほら、こうして笑いあっているとカップルみたいじゃないか。
僕はそんな幸せを噛み締めていた。
ずっとこのままでいられたらなぁ…なんて思う。

しかしそんな願いは叶わず、僕の幸せを邪魔する者がやってきた。
「あれ…さん?」
「あーっ、不二君!」
その茶色い髪の男を見ると、彼女はすぐさま立ち上がって
男の方に駆け寄っていった。
「やっぱりさんなんだね。」
「うん、久しぶりー。って…不二君どうしたの?ここ埼玉だよ?」
「うん。乾が緑山中に偵察に行くって言うからついてきたんだ。」
「乾君も来てるの!?」
「うん。でも乾は今、別のところでデータ整理してるよ。」
「そうなんだー。乾君にも会いたかったな。」

ずいぶん仲の良さそうな男だな。
くんのお友達かな?というかお友達だよね?
まさかそれ以上の仲ということはないよね?
僕は少しいらだった気持ちを抱えながらも
そんなことは表情には微塵も出さないようにして
くんに近づいた。
くんのお友達かい?」
「あ、牛尾先輩。」
あ、やっとくんがこちらを向いてくれた。
「はい、中学のときの後輩です。」
「そうか。確か君は東京から転校してきたんだったね。」
「はい!」
いい返事だ、そう思って彼女の頭をなでてあげると、
彼女は僕を見上げてうれしそうに微笑んだ。

「不二 周助と申します。さんとは中学で大変お世話になりました。」
そうしたら不二と言う男がそのいい雰囲気を遮断するかのように、
自分の名前を言った。ちなみに後半部はさっと流したい。
そして僕が名乗っているうちに、くんはまた不二の方を向いてしまった。
この男…笑顔の下に黒いオーラがにじみ出ているような
気がするのは気のせいかな?
…なにやら近しいものを感じるよ。

「不二君ー、別に私お世話してないよ。」
「くすっ、そんなことないけど。
そういえば僕がお世話したこともあったかな。」
「あー、あったねー。」
何、仲良さそうな話をしているのかな?
ていうか何気に距離近いよ?

なんだか、どうしようもないくらいいらだつな。
顔は笑ってみせるけれど。
でも…そうだ。
くんは今は僕の近くにいるのだから、
僕は年上の余裕ってものを見せなければ、ね。

くん、昔の知り合いに会えてよかったね。」
「はいー、うれしいです!」
さりげなく強調したのは「昔の知り合い」。
不二の笑顔が一瞬消えた。
「でもね、あまり遅くなったら部の皆が心配するよ。」
そう話すと、くんははっとした顔をした。

「帰ろう?」

「はい!」

くんの屈託も戸惑いもない笑顔が僕に向けられる。
空気は僕たちだけを包み込むように流れる。
何か、勝利をものにした気がした。
「不二君もごめんね。僕たち買出しの途中なんだ。」
そう感じると、心にもない一言だってさらりと言える。
「また埼玉に来る機会があったら、よかったら今度は十二支高校に来てよ。」
「牛尾先輩…?」
―むかえうってあげるから――
これは僕からの挑戦状、かもしれない。

不二は鋭い笑みを僕に向けて言い放った。
「はい、…ありがとうございます。」
そして僕たちはその場を去った。
あぁ、なんか上級のライバルを見つけた気がする。

――――――――――――――――――――――――――――――
残された不二の元にはその直後に乾がやって来た。
「やはり…か。」
「何が?」
「お前が、埼玉に行ったとき先輩に会いに行く確立97%。」
「ふふ、それだけ?」
乾はしばらく無言でいた後、小さく口を開いた。
「…不二が先輩に会ったとき、
周りから不穏な(というか敵意を持った)空気が漂う確立75%。」
「ふぅん。」
不二は恐ろしいほどの笑みを浮かべていた。
乾は大体のことは予測できていたはずなのだが、
それでも不二は、そんなこと関係なしに恐ろしいと肌に感じた。
「乾、十二支高校野球部のデータを集めてくれる?」
「…暇があったらな…(何でだ)…。」
二人の周りでは、乾いた風が強く吹き続けていた。

---END---


あとがき

偵察はどのくらい遠くまで行かれるのでしょうか。
…あの二人ならどこまでも行くことができると思い込みたいです。
切原君も寝過ごして青春学園に着いたことですし(関係ない)。
牛尾と不二。笑顔で恐ろしいことをおっしゃるのが似合う人。好きです。



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