簡易ウイルス講座


休み時間。
普段なら大体の人は友と話すなり、寝るなり、
どこかに行くなり、皆それぞれの時間を過ごしているものである。
しかしこの日はクラスのほとんどが一点に集中した。
その理由は、自分のクラスにクラッシャーこと不破大地が現れたから。
ここは桜上水中ではあるが、2-Cではない。
それにこのクラスにはサッカー部員がいない。
ゆえに不破がこのクラスに来る理由が見当たらない。
(な、何で不破がうちのクラスに…?)
教室にいる者はこの事態に沸いた。

不破は皆のそんな騒ぎを気にすることもなく、
堂々と教室内に入っていった。
そして机に突っ伏していた一人の女生徒の前で足を止めた。
「おい、。」
女生徒=はその声を聞くと、
ぼんやりとした顔のまま、不破の方に顔を向けた。
「んぁ…何?不破。」

クラス一同(不破が女と話してる!)
普通の人なら意外でもなんでもないのだがそこは不破。
あのクラッシャーが女とまともに話しているなんて。
しかも我がクラスメイトの安心しきった顔!
クラス一同はそれだけで異様に盛り上がっていた。
不破との関係が気になる、と。

不破が口を開いた。
すぐさまクラス一同は聞き耳を立てた。
しかし不破からの言葉はどう反応すべきかわからない言葉だった。
「お前からウイルスメールが来たぞ。」
クラス一同(ウイルスメール?)
パソコン上でインターネットやメールをしない者には聞き覚えのない言葉。
しかしそこで気になったのはメールという単語。

クラス一同(もしかしてメル友!?不破とが!?)

メールアドレスを知っている=メル友とは限らないと思うのだが
残念ながらこのとき冷静な判断を下せる人はこのクラスにはいなかった。

そんなクラスメートの驚きにもかかわらず、
はただ言葉のとおりに不破に返事をした。
「うそー、ほんと?」
「あぁ。」
周りはお構いなしにマイペースでに話し続ける二人。
クラスがざわついていることは大して気にしていない様子だ。
「結構気をつけてたんだけどなぁ。何のウイルス?」
「クレズだ。」
「はやってる奴かぁ。
メールアドレス偽装するらしいけれど、私からってわかるものなの?」
「ヘッダを見れば大体推測できる。」
「あぁ、プロパティね。」
なにやら専門用語らしきものが二人の間で飛び交っている。
クラスの大部分はわからない言葉に疑問符を並べ立てていたが、
それでも興味本位で二人を眺め続けた。

「にしても気をつけてたんだけどなぁ。何で…。」
「セキュリティホール対策はしているか?」
「ちゃんと修正プログラムとかアップデートしてるよ。」
「メールソフトはプレビューをしない設定に変えてあるな?」
「うん。」
「添付ファイル付き英文または無題のメールを不用意に開いてないか?
最近は別ウイルスだが日本語のタイトルもあるのでそれも注意だな。」
「大丈夫だって。」
「じゃあ感染しているページを見…ってそれは別のウイルスだな。ならば…。」
不破が考察モードに入ろうとしたが、それはがとめた。
インターネットをしない人間にとっては実にマニアックな会話かもしれない。
こんな会話が普通にできるのだから、 不破とはそうとう仲が良いらしい、
クラスの大部分は漠然とした印象を持つことしかできなかった。

「原因はもういいよ。
もしかしたらうっかりミスしたかもしれないし。」
「そうか?」
「とにかく報告ありがとう。家帰ったら駆除作業に取り掛かるよ。」
「あぁ。」

クラス一同はやっと理解しづらい話が終わったかと胸をなでおろした。
しかし不破は去り際に「言い忘れたことがあった」と
再びのところに戻っていった。

。俺が開発を手がけた
特製のウイルス対策ソフトがあるのだが使わんか?」
不破はどこからかCD-ROMを取り出し、ニヤリと口の端を吊り上げた。
周りにとっては限りなく怪しい表情だ。
「アップデートは無償でいいぞ。」
「いいの?」
「あぁ、家のコンピューター以外でもデータを取りたいからな。」
「不破ありがとー!」
そう言うとはふわりと笑顔を見せた。
男子生徒たちは思わず見惚れた。

不破はしばしを見つめた後、
ふと、に渡すはずだったCD-ROMを高く上げた。
「?」
は疑問に思いながらもゆっくりと立ち上がった。
視線はもちろん頭上のCD-ROMに向いている。
はそれをとろうと手を伸ばした。
すると、妙に温かい空気がを包み込んだ。
それはほんの数秒のことだった。

(あぁっ!)
クラス一同は思わず叫びたくなった。

不破はを抱きすくめていた。
しかもそれは壊れ物を扱うがごとく優しげで、
とても不破からは想像がつかない…。
クラス一同の盛り上がりは一気に最高潮になった。

そして不破は回していた腕からそっとCD-ROMを放した。
の机の上でカシャッという音が鳴った。
「不破?どうしたの?」
は少し驚きつつも普通にたずねた。
どくどくどくどく…
自らの心臓の波打つ音が、やや速めにはっきりと聞こえる。
そして…体温が温かい。
不破はゆっくりと低めの声で答えた。
「…なぜかこうしたくなった。」
「不破…。」

もしかしてこのまま二人の世界へ突入してしまうのか!
クラス一同はそう思った。
しかしその瞬間

キーンコーンカーンコーン…。

休み時間終了のチャイムが鳴った。
不破はそれを聞くと腕の中のをパッと離してしまった。
「授業が始まるな…。では、教室へ戻るか。」
「ん、じゃあね。」
は軽くほほを染めた笑顔で、不破に向かって手を振った。
不破はまたその表情に見とれそうだったが、
何とか気を取り直し、少ししてドアのほうへと足を進めた。
…もうひとつメッセージを残して。

「現実のウイルスにも気をつけるんだぞ。」

「…うん!」
は「病気をするな」と言っているのだろうと判断し、
気を使ってくれているのかなと素直に喜んだ。

不破の心中。
ウイルス…不穏分子…多分気づいていないのだろうな。
お前のあの表情に動揺していた男子生徒が複数名いたことを。
あれはおそらく俺と同じような感情を抱いていたのだろう。
ふぅ…。しかしまぁ、今のところ俺が一歩リードという所だな。

不破の目がキラリと輝いた。

---END---


あとがき

クレズ(KLEZ)やバットトランス(BADTRANS)Bなど、正確にはワームです。
といっても一般的にはウイルスとしてひとまとめにされています。

不破:これは夢なのか?ウイルスについてなら
他に本格的なウイルス講座を作って、載せたほうがよいのではないか?

夢ですよ。きちんとしたのって…私には他所の真似事くらいしかできません。

不破:確かにそうだな。お前の知識では高が知れている。
なんといってもRedlofをルドルフと読みたくなる頭だからな。

観月さんならウイルスつくれそうだからつい…ってそこ関係ない。ええと、
これを期にウイルスについて、興味を持ってくださる人がいらっしゃれば幸いです。



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