殺意→愛しさ


たまにその白い首に手を這わして、
鎖骨の真ん中のくぼみ、
その少し上の骨の部分に指を押し付けてみたくなる。
それとも指を添えれば脈動が手にとれるここ…
そう、頚動脈をこのカードで華々しく切りつけるのとどちらがいいだろうか。
他の人間になら後者だろうけれど、彼女にいたっては前者を優先したい。
だってそうすれば、
「うぅ…。」
君の声が聞こえるだろう。…ねぇ、眠り姫?

「ん…ぁ…。」
少し押し付けただけでくぐもった声を漏らす。
その響きは静かな室内ではかえって目立つ。
けれど僕はその様子が妙に好きで、
もう少しだけと、つい、その指に力をこめたくなる。
口元が無意識につりあがる。

サッ―――。
ふと、彼女の大きな目が僕を射抜いた。
彼女は眼前にある僕の姿を確認すると、
大きく開いていた目をゆっくりと瞬きさせ、身体を起こした。
「…おはよう、死神さん。」
「おはよう、眠り姫v」
そして薄っぺらな笑顔で微笑みあう。
これが僕らの挨拶…といつの間にかなってしまった。

白い壁と天井に囲まれた内側は白いシーツで覆われた寝床と
その中に白い服を着た白い肌の少女。
その白い空間を赤く染めてみるのもまた一興だけれど。
初め病院のようだと思った一室、でもここはとある豪邸の一室、
としか僕は知らない。
あとはこの閑散とした空気に溶けるような声でつむがれた
彼女の名前、だけ。

。」
「なぁに。」
「元気かい?」
「…そう見える?」
短い会話すらも至福を感じさせる。
「全然v」

彼女の目はまっすぐ僕を見ているようだが、
本当は何も映していないのかもしれない。
それでもその色に僕は美しさを感じてしまう。
透き通ったガラス玉のような瞳。
壊れそうで、壊れない。揺れることもない。
どうしてこんなところでじっとしているのか、
わからないくらい、もったいなく感じる。
けれど君がそこで留まるから、容易に会えるのも事実。

「ねぇv」
声を出したのはやっぱり僕から。
彼女はただ目の前のものを見ているだけだから。
会話だって僕が尋ねた分をシンプルに返すだけ。
「僕を…僕の名前を呼んでよv」
求めないと名前すら呼んでくれない。
「………ヒソカ。」
たった三文字、つぶやいた。

「今、僕の名前忘れていただろう?」
間が空いたことに冗談らしく茶化してみた。
彼女は無機質な瞳で僕を捕らえた。
それは茶化したときの僕の笑顔を封じ込めるように。
けれどその後彼女がつむいだ言葉に、僕はひどく愉快だと思った。
「…かもしれない。」

けれど完全に満たされることはない。
だから君が眠っているときに、
僕はその首に自らの指を押し付けてしまうのだろう。
君があまり見せない感情を確認するために、
ほんのわずかな苦しみを与えてみせる。
徐々に強く、でも限界を超えないように。
…君の声が聞きたい。

殺してしまいたいほどいとおしいのに殺したくもない。

その不思議な感情が僕の口元を無意識にゆるめる。


---END---


あとがき

…何これ。余裕のないときに考えるから、こんなわけのわからないものができるのでしょうか。
一般の殺意は憎しみ、ヒソカの殺意は興味。その感覚がヒソカの魅力なのかもしれない。
それにしても、名前変換もキャラ名も一つって…。



戻る    最初に戻る