寒いからこそあたたかくなる


空気が肌を刺す。今の季節は冬。
男と少女が隣り合って外を歩く。
少女はときおり服を押さえ、顔をしかめる。
少し悲しい風景?
いや…

「なぁーーー!!」
風が強く吹くのを合図に彼女は勢いよく声を上げた。
「さむいっての!!」

それを横目で見る男―イルミ。
だが、彼は寒さに叫んだに対抗することはない。
まぁ、それが彼の性格と言ってしまえばそれだけのことだが。
何の特にもならないことを彼はわざわざ行うつもりはないのだ。

一方、は風が弱まってもなお、
この冷たい空気に文句を言わんばかりにつぶやいている。
「むぅ…」
そう、何回も言葉にならない程度に口をもごもごとさせる。
また風が吹いた。
「のぉっ!」


イルミはそんな彼女を見下ろしつつ、
今にもため息をつきそうな気持ちを抑えた。
だが、これは今ではよくある様子だ。
一人が感情をさらけ出し、イルミはいつも冷めた目で彼女を見る。
まるで今の、冬の空気のような視線。
第三者から見ると、片一方だけ感情がないようにも思われる。
だけれどもの前ではイルミの心は同じではなかった。
「……………。」
を見て思う。
彼女と出会ってからの緩やかな変化、わずかな違和感。
イルミがそれに気付かないはずがなかろうか。
気付いてもそれを言葉として理解するのはまだ先か。


また、今度は一段と強い風が正面から飛んできた。
二人の黒髪がふわりと宙を舞う。
はまた顔をゆがめて叫び声をあげた。

「ほっぺがアイス大福になるー!」
何言ってんだか。
そう思うもわずかに口元が緩むイルミ。
瞳の奥にほんの少し熱がこもる。
「おいしそう。」
息を吐いたのと同時に口をついたのはきっときまぐれ。
ペロリ
彼女の顔をつかんで、そのほほを味見したくなったのもきっと。

はほほを真っ赤にしてしばし固まった。
風は、いつのまにかそよぐ程度にふいている。
それはまるで熱を持ったほほをくすぐるように。
静寂の中、先に口を開いたのはイルミだった。
「あたたかそうだね。」
のほほに右手を当ててから、
イルミはもう片方の腕で彼女の身体を引き寄せた。
「うん。このほうがもっとあたたかい。」
その満たされたような声に気付くものは今はいない。
はイルミに包まれたまま、
ただ小さな唸り声を上げることしか出来なかった。
(確かにそうだけど…動けないよ!)

気まぐれさに潜む行動の意味。
わからせるのはきっと特別な人。


---END---




あとがき

寒さに「ほっぺが雪●大福になるー」と口走ったのは私です。
音風璃乃様のリクエスト「イルミ夢」。
ちょうどリクエストが来る前に考えていたものをイルミ夢として形にしました。
リクエスト、ありがとうございます。




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