2月14日、聖バレンタインデー。 家族以外、誰も屋敷にたどり着いたことがないと言われるゾルディック家の、 長男イルミの部屋に一人の少女がやってきた。名は。 「イルミー!」やや高めの声を上げてはノックもせずに部屋の扉を勢いよく開けた。 イルミは本(世界の骸骨の不思議)に目を落としていたが、その声で扉のほうを見た。開けられた扉の先で見た少女の顔はほんのりと紅かった。 「…何だい?」 「一緒にチョコ食べよ♪」 「何で?」「何でって…。」 は、イルミは今日がバレンタインデーだってこと忘れているのかなぁと思った。 しかしすぐさま「まぁいいか」とも思い、「今日はバレンタインデーだからチョコ作ったの。」そう言って、イルミにチョコレートを差し出した。 イルミは「一緒に」と言うところが甘いもの好きのらしいなと思ったが、 とりあえず「ふーん。」とだけ言いを自分の横に座らせた。 「さぁどうぞvv」そう言われて出されたものはガナッシュチョコレートを丸めたもの。 表面にはココアパウダーがまぶされている。形は…少しだけいびつだ。 トリュフチョコレートとは少し言いづらい。 「あ、少し生クリーム入れすぎてかなりやわらかいから気をつけてね。」 イルミはの言葉を聞いたあと、チョコレートを一つつかみ口に入れた。それと同時に甘くほろ苦い味が口の中に広がった。 イルミはココアパウダーが指についたままなのをきにせずに、それを舌で転がし味わった。 チョコレートはすぐに舌になじんでいき、じんわりとしびれを感じさせた。 「おいしい?」「…うん。」 横ではやはりが見ていた。何か菓子を作って誰かに食べさせるときにはいつもその反応を見ている。 その目はこちらだけを見ているようだが、実際は菓子の出来具合が気になるだけなのかもしれない。 女心とは複雑なものだからよくはわからないが。どうせなら理由抜きでオレだけを見て欲しい。 そしていつも似たような返事をしているのに、いつも喜ぶのは単純さも兼ね備えているのだろうか。 なんだか頭がぼんやりとしてきた。 手にしている二口目のチョコレートはイルミの指から溶けて、くずれてきていた。「どうしたの?」 はイルミの顔を覗き込んでぱちくりと瞬きをした。 そのとき、わけのわからない衝動がイルミの中で沸き起こった。 「―――――――っ!」 気づけばイルミはチョコレートを持ったその指をの口の中へ押し込んでいた。すぐさまの口の中にその指の違和感とチョコレートの甘い味が感じられるようになった。 「んぐぁ…。ふぁにふんのよぉ…。(何するのよぉ…。)」「あげるよ。」 「ふぁげうって…てかゆぃはらひへ…。(あげるって…てか指はなして…。)」 「よくわからないんだけど。」 そう、イルミの指先はいまだの口元に入ったままだった。ぼんやりとした風に見えたその顔はいつの間にやらすっかり普段のものへと戻っていた。 ガラス玉のような瞳でひょうひょうとした感じで。「らから、これぇ!」 そう言いながらはイルミの手をつかんで、それを自分から離した。その顔はしっかりとあせりの表情が浮かんでいて赤かった。 その後、イルミはきょとんとした表情でその離された手を見つめた。じんわりとした湿り気が少しずつ手のぬくもりを奪っていった。 「あーあ、手べとべとじゃん。」 はイルミの手を見ながらそう嘆いた。 でも、何故あんなことをしたのだろうか、そんなことを問う気はなかった。ただ楽しく、そう、チョコレートを食べたいんだ。 だからは再びチョコレートを一粒イルミへと差し出した。 「とりあえず食べようよ?どうせこれ、汚れやすいんだし。」「うん。」 そう言いイルミは手につきっぱなしのチョコをぬぐうがごとく、一回だけその指を舌先でなめた。その後も、時にイルミはいたずらじみたことをしたが、 はいたって素直に…でも、どこか核心を突かずに反応するのだった。 実はイルミも自分のしていることの意味がよくわかっていなかったり。 理由抜きで見て欲しい、そんなことはすでに心の奥底へとしまわれていた。 あからさまな行動、でも気づかない思い、いつか通じ合うことを胸に秘め。 そんな鈍感な2人のバレンタインデー。 それすらも日常の楽しい思い出のごく一部である。
(おわり) |
あとがき 〜チョコトーク〜
イルミ「強制終了っぽいね。ていうかこれってずっとほっ…」
それ以上言わないでください。そ、そういえば、イルミってたくさんチョコもらうよね?
イルミ「まぁね。結構あるけれど、一応全部食べてるよ。」
それでその体型!?その髪のツヤ!?その美肌!?すごすぎるって…。
イルミ「そうなの?」
そうなの。