Lovely Child 番外編0.5 初めての言葉



を育て始めて数ヵ月後、団員達が集まった。
団員達が集まることといえば仕事があるときだが、
いつもは出席率が高いとは決して言えなかった。
しかし今回はどうだろう。
数ヶ月前に団長が拾ってきた女の子。
かわいいかわいい
普段は団長とともにしているためか、自然とそこに注目が集まった。
そう、出席率は100%―だ。

仕事は速やかに終わった。
けれど、団員達は用が済んだからとすぐに姿をくらまさず、
皆、しばらくアジトにいつづけた。
ときにを囲みつつ、を触りつつ、を抱きかかえつつ…。
その様子に団長の額にわずかに青筋が宿っていた。

それはともかく。
「なぁ、こいつまだしゃべらないのか?」
ふと、を見ていたウボォーギンが団長にたずねた。
「ふむ…俺の見る限りではまだ言葉を操る様子はないな。」
ときおり、「あ」とか「う」とかつたない声は出すのだけれど、
それはまだ言葉としては出来ていない。
「ふーん。」
のほほをつつきながらウボォーギンはつまらなそうに返事した。
大きな手と小さな体が並ぶさま。
見ていて少しこっけいだと思ったのは某団員の小さな秘密。

(そういえばもうそろそろかもしれないな。)
そう思い、団長は以前手に入れておいた育児書を手に取った。
ぱらぱらとページをめくり、該当の箇所を目に入れる。
その後、団長ははっとしてに駆け寄った。
、よーく聞いてくれ。」
顔を近づけて一心にを見つめる団長。
は間近にある団長の顔にきょとんとしていた。
団長はひとつ息を深く吸うと、強い意志を持った瞳でに話した。

「初めての言葉はクロロと言っておくれ!」

床にへばりついての申し出。
そんな団長の様子に一瞬、団員達の時は止まった。


日が落ちかけた頃、はパクノダに抱かれ、食事中。
注)母乳ではありません(当たり前)。
「かわいいわね。」
小さいスプーンにすくった柔らかなおかずを
これまた小さいお口で懸命にもぐもぐとそしゃくする。
パクノダは母の幸せというのを実感していた。
「あぅむ。」
「ふふ。」
食事が終わったあとには背中を軽くたたいてげっぷをさせよう。

夜になるとやはりは眠いらしく、ときおり頭をかくんと揺らす。
そこもまた愛らしいと皆は思う。
寝所へ運ぼうか。
団員達がそう思った頃、の口からつたない声が漏れた。

「くぅ…。」

、今クロロといおうとしたんだな!」
自分の名前にある一文字が言われただけなのに、
団長は持っていた本を投げ出してのそばへ駆け寄った。
「言ってないって。」
このつっこみは団員の誰もが一致しただろう…。

それはさておき。
本当にが言葉をつむぎだすと言うのなら、それはぜひとも聞いてみたい。
団員達は聴覚をに集中させた。
「うぅ…。」

「あぅ…。」
皆が注目していることに首をかしげる
ふと、それに耐えかねたのかは知らないが、は頭を下げた。
(やっぱり眠いのかしら。)
パクノダはそう思ったが、またすぐには頭をあげた。
そしてまた声を出した。

「うぼぉ…。」

静かな空気に亀裂が生じた。
団長にいたっては石化状態。
この場に心湧かせるのはただ一人。
「俺の名を呼んだんだな!うれしいぜっ!」
満面の笑顔でを見つめるウボォーギン。
(いや、多分偶然だと思う。)
そのように別の団員が考えたが、当の人間はそんなことに気付くはずもなく
を抱きかかえて、真上へ放り投げた。
「高い高いだー!」
「ちょっとあんた、天井にぶつかる!」
マチがどなり、パクノダがあきれる。
しかしウボォーギンはそのままに夢中。
キャッキャと喜ぶ

団長はまだ床にへばりついて泣き言を言っていた。
「ぉおれの……。」


おわり




あとがき

旅団の子育て記録。パクノダのあたりは紛れもなく趣味です。




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