花を愛する人


彼女…は花が好きだ。

四季折々の花のそばにはがよくいる。

がどのくらい花を好きかと言うと、まず花を見れば柔和に微笑み、

また花が虐げられていると、それがどんなに小さな花だろうと

悲しげな表情を浮かべ、それにやさしく手を触れる。

それらのときのと言ったら、まるで聖母のように光がさしているのだ。

実にあたたかみがある。

ある春の日、クラピカはに花をプレゼントした。

彼女は花が好きだから、きっと喜んでくれるだろう ――――――

そう思って、できる限りの笑顔で渡した。

しかしは同じような笑顔を返してはくれなかった。

「…ありがとう。」

なぜ悲しそうな顔をしているのだろう。

「…うれしく…ないのか?」

「うれしいよ…?」

それじゃ、なぜ…。

そう思い直したときには、すでにの悲しげな表情は消えていた。

気を使ってくれたのだろう。

「縁起の悪い花ではなかったはずだが…。」

が去った後、クラピカはひとりそうつぶやいた。

風がよりいっそう切なさを深めた。



そのあとクラピカは再びについての考察を始めた。

は花が好きだ。それはわかっている。

しかし彼女はどんな花が好きだった?

…確かこの前聞いたときは、私の知識に勝るとも劣らない花の数を言われた。

そのとき私はラフレシアが入っていたことに、少々驚いた。

それはともかくとして、彼女はどんなときにあの笑顔を浮かべていた?

どんなときに悲しそうな顔をしていた?

確か…あれは…。



洪水のようにに関する記憶がクラピカの中に流れ込んだ。

クラピカはその記憶に心身をゆだね、夢を見るがごとく感じ取っていった。

気づいたときには本当に夢を見ていたようだ。

「あぁ…そういうことか…。」

クラピカはまだぼんやりした頭のままで、ごくやわらかく微笑んだ。

その翌日、クラピカはの家を訪問した。

その理由は、大半はに会いたかったからなのだが、

ほんの少しだけあの花の行方が気になるからと言うのもある。

まさかが、あの花を捨てたりするわけもないのだが。

「はい、お茶。」

「ありがとう。ところであの花…。」

「うん、貰い物の花瓶があったから、それに飾ってるよ。」

南向きの明るく日がさす窓に、その花は置かれていた。

クラピカはそれを見て、に礼を言った。

「いえいえ、こちらこそありがとう。」

ひと時の沈黙がやわらかい空気と共に流れた。

静かだけれども、心地がよい。

しかし話したいことは話すべきだと、

クラピカはそう思い、その沈黙を破った。

は…自然が好きなのだな…。」

はティーカップを持ったままクラピカのほうを見た。

クラピカは話し続けた。

「桜の花びらが自然に舞うのが好きで…、

オオイヌノフグリが誰かに踏みつけられたのが悲しくて…、

太陽と共に明るく存在するひまわりがお前を明るくする。…そして、

人為的に作られて、人為的に摘み取られる花がお前は悲しいのだろう?」

はそのままの姿勢でじっとしていた。

「クラピカ…よく見てるね…?」

「まぁ…な?」

クラピカは照れ笑いをして、茶を飲み干した。

もそれにつづいて茶を口に含んだ。

やわらかな日差しが二人を少し赤く色づけた。



今度は、私が種から育てた花を鉢ごとプレゼントしよう。

多くの時間はかかるけれど、

が、花に対するものと同じものを、私に与えてくれるのならば、

それはとても…やりがいのあることではないか?


---END---




あとがき


クラピカドリーム「桜」に続いて、花が題材となりました。

あくまでも自然を愛する女の子。花が好きというよりは自然が好きというほうが正しいのでしょう。

ちなみに、ラフレシアは世界最大の花で、オオイヌノフグリは春に道端に咲く、小さな青い花です。




戻る

最初に戻る