出会いから再会まで


という名の女。
俺が初めてそいつを認識したのはハンター第一次試験、
右前方から襲い掛かってきたけものをそのしなやかな腕で制したとき。
何でその姿を脳内に刻み込んでしまったのかは、
そのときは俺は気にも留めなかった。

「いいの?」
鈴が鳴るような音が風に乗った。
時はゴンがレオリオを心配してヒソカのところへ走っていった後。
ゴンが走り去った方向を遠めで軽く眺めてから、
進路の方向に振り返った直後。
気配はなかったと思った。
まぁ、あわただしい空気だったから、
気づかなかっただけなのかもしれないけれど。
「いいんじゃねーの。」
俺はそう返事をすると前へと足を踏み出し、進めた。
別にあいつらとはまだ会ったばかりで、
ちょっとした興味はあっても、まだ思い入れはなかったから。

ゴン達がと接触したのは、二次試験直前の待ち時間。
俺がそいつを見ていたら、ゴンが声をかけていた。

それから俺は無意識にを視界に入れるようになった。
二次試験、手際よく包丁を扱う姿。
できたものは「スシ」ではなかったみたいだけれど
優美で食欲をそそる料理だった。
三次試験は分かれてしまった。
だからタワー内でのことはよくは知らない。
けれど、俺達が出口へ出たとき、
なぜかヒソカ達とトランプをしているのが目に入った。

四次試験、偶然近くにいた。
俺が声をかけると、
は悩ましげに明らかに多いとされるプレートを掲げた。
「どうやらなめられているみたいだ…。」
それを俺が笑いとばしたら、
は怒りも照れもせずに、 ただ淡々と「いるか?」と俺に尋ねた。
俺はすでに点数分のプレートは手に入れていたので、
それをあっさりと断った。
…変な奴、だと思った。

最終試験、ゴンの骨が折られたとき。
オッサンやクラピカまで怒りをあらわにしていた。
けれど、はただ静かにそれを見つめていた。
「落ち着け。」
俺はその様子を疑問に思ったけれど、
空気に溶けるほどの声でつぶやいた言葉には
戦う二人の意思をくみ取ったようにも思えた。

まぁ、イル兄を見てからはそれどころではなくなっていたけれど。

ククルーマウンテン。
人を殺し、走り去った俺は鎖につながれていた。
別にどうでもよかった。
あの時、すべてが崩れ落ちた気がしたから。
でも、それでもなぜかあいつらの姿が思い浮かぶ。
さらさらの髪は揺れるたびに目を惹き、
しなやかな手足は風のように素早く美しく動く、
そして、捕らえられてしまいそうなほどの深い色の瞳…
いつの間にか焼き付けられていた―――って何考えてんだ俺。
「へへっ、女もいるぜ。奇特な奴だなぁ。」
ふと、無駄話をしていた兄貴が
明らかにさげすみを含んだ声でそう言った。
瞬間、体中の血がカァッと沸き立った。

――あいつを汚された気がした。

ガシャン!
「あいつらに手ぇ出したら、殺すぜ。」
手をつないでいた鎖がパキリと割れた。
兄貴は俺の言葉よりも、その激しい怒りと殺気に怯えた。

再会。執事邸の扉を開けると、
ゴンがうれしそうにこちらへかけてきた。
俺ももちろん皆に会えたことがうれしくてそれに喜んでこたえた。
少し離れたところでは、
クラピカとレオリオとがこちらを見て微笑んでいた。
なんだかうれしくってくすぐったい気分だった。

俺が走り去ってからこんなことがあったらしい。
「最終試験時のキルアに対してのお前の言動、
心理作戦か?…それとも兄としての責務か?」
あのあとはものすごくけわしい表情をしていた。
口では何も言わずとも、その状態はおのずと周りの目を惹いた。
最終試験終了後の集合時、ゴンがイルミに立ち向かい、
そして二人の言い合いに間が空いたとき、は二人の間に入っていった。
「……………。」
イルミは無言で視線をへと変え、その大きな目でを見つめた。
「両方、かな。」
はイルミの目を見つめ返したまま、軽く息を吸った。
「お前個人としても…そう、思うのか?」
静かなにらみ合いに思えた。
「…同じだね。」
イルミは相変わらずの無表情と口調でそう言い放った。
「そうか…。」
はそうつぶやくときびすを返し、席へ戻ろうとした。
!」
ゴンが彼女の名を叫んだが、彼女の足は席に着くまで止まらなかった。

「人の信念を根底からくつがえすのは厄介だ。」
そういい残して。

――ただ、そううまくはいえないが、大切な者の意思を好転、
または強くさせる手伝いくらいはできるだろう?

それを聞いて俺は心臓が一つ、大きく打ったのを感じた。
普段冷静な奴が俺のために怒り、でも頭ごなしに兄貴を否定しない。
甘いといえば甘いかもしれない。
けれど、たとえの行動が特別な思いに駆られたものでなかろうと、
それは確実に俺の心を動かしたから。

少しはなれたところで執事と話す
ほんの少し漂う穏やかなオーラからは怒りの表情なんて想像もつかない。
一次試験のときのただ凛とした温かさの見えないオーラとは違う。
自然と顔の筋肉が緩む。
いつの間にか俺たちは、打ち解けていたみたいだ。
「サンキュー、な。」

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「おっし!」
「キルア、どうしたの?」
「俺、やりたいことが見つかったかもしんない。」
「へぇ〜、何なの?」
「もっと強く、いい男になってさ…あいつをおとす!」
「あいつって?…どこに落とすの?」

キルアとゴンの間でこんな会話がなされていたことは
当の本人には知る由もない。

---END---


あとがき

キルアが使わないだろう言葉があることをお許しください。
え、…今更?
目指したのは落ち着いた主人公。クラピカに似ているような。




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