深緑の季節。二人は昼下がりのまどろみの中にいた。 日の光が窓から射しこみ、二人を芯からぽかぽか暖めてくれる、そんな中。 そのうちの一人…イルミには小さな疑問があった。 疑問と言っても、本人にとってはただ気になる程度の、 ほんの小さなとっかかりにすぎないが。 「ねぇ…。」 「なぁに、イルミ。」 もう一人…は実にゆったりとした安楽そうな声で返事をした。 「ちょっと聞きたいことがあって。」 「なに?」 は優しげな瞳でイルミの方を見た。 「………なぜ君はオレのそばにいるんだ?」 するとは目を開いて、さも当たり前のようにこう言った。 「へっ、言ったじゃん。…イルミが好きだからって。」 少女独特の抑揚のある高い声が、イルミの耳に痛快な刺激を与えた。 しかしイルミはいつもどおり無表情のまま、さらに話し始めた。 「オレ、『好きだから』っていうのがよくわからないんだよね。もっと詳しく教えてよ。」 「あ〜、なるほど。イルミらしいね。わかった、考えてみるよ。」 イルミはこれでが自分の言うことを理解してくれたと思った。 そしてイルミは再び楽な姿勢になった。 そのときイルミに、このような声が聞こえてきた。 「だったらイルミも考えてね。」 もちろんそれはすぐ近くにいる少女の声。 「なにを?」 これはにした質問であり自分が考える必要はない、 そう思ったイルミは、 頭に?マークを浮かべながら尋ねた。 はにこりと笑ってイルミに答えた。 「なぜイルミは私のそばにいるのかってことだよ。」 どうせ待っている間退屈だしいいかな。 そう考えたイルミは肯定の返事をした。 そしてすぐさま考えようとした。 ふとその前にひとつ気づいたことがあった。 はいつの間にやらイルミの後ろに回って、イルミと背中合わせにすわっていた。 (まぁ、別にいいけど…。) 背中から伝わる感覚はほんの少しだけ温かかった。 サイド。 (うーん、イルミを好きなのをくわしくね〜。 理屈で語りつくせるものじゃないんだけど…。 んーと、一般的に言うと、外見とか性格とか好きって言うよね。 まずそこから考えてみよう! …まずは外見。…なんといっても髪と眼かな。 きれいな黒髪、あんなに長いのに枝毛ひとつ見当たらないなんてすごいよね。 眼は普通の人ならキラキラした眼がステキなのだろうけど、イルミは違う。 無駄な光に干渉されず、自分自身のみで存在しているって感じが〜。フフフッ♪) どうやら気分が高揚してきたようだ。 (次は性格。基本的にはマイペースなんだけど、結構優しいところがあるんだよね。 手は差し伸べないけどずっと見守ってくれる、そんな何気なさが好きかな〜。 あっ、なんか楽しくなってきた〜!) この間、心の中は相当幸せになっている模様。 やがて結論に達する。 (…そうか!イルミのこととを考えると楽しいんだ!!) だから私はイルミを欲している。この身体、心がイルミを求めている。 それはそばにいるともっともっと幸せな気分になれるから。 これが私の「好き」なんだ。 の心の中に貫かれるような強い光が射しこんだ。 「好き」という一見当たり前の感情を、は言葉として学んだのだった。 イルミサイド。 (「なぜそばにいるか」か…。あまり考えたことがなかったな。 ん…なんだろ。 そばにいて迷惑なら離れればいい、つきまとわれてうっとうしいのならば消せばいい。 しかしオレにはそういうことをする気が全くない。…なぜだろう?面倒だからか? いや、むしろあいつがそばにいた方が落ち着ける気がする。 あいつの動作の節々に対して、軽く胸がうずくときがあるけれども。 不思議な感覚だ…でも悪くはない。…ただの女じゃないのかな?それとも…。) 表情の変化はそれほどなくても、まばたきの回数が弱冠減っていた。 (…………………。) 「イールミッ♪考えたよ!」 しばらくするとの方から声をかけてきた。 実はイルミの考えはさっきの時点で行き詰まっていたのだが、 の答えを早く聞きたくてふりむきざまに姿勢を変えた。 感じ続けていた背中のぬくもりが離れてしまうのは少し惜しかったが。 は手の振りや抑揚のある声、そして笑顔で、 一生懸命に考えていたことをイルミに伝えた。 イルミは黙ってその話を聞いていた。 「…なの。わかった?」 「うん。」 はさらに息継ぎをしてまた話しだした。 「…でも私、イルミが質問してくれて嬉しかったな。」 「?」 「だってイルミそういうことにあんまり興味なさそうじゃん。」 笑い声を含ませていかにも嬉しそうに言った。 明るい雰囲気はいつも彼女の中から出ている。 は少し視線を落としてから再び視線を上げてイルミに尋ねた。 「イルミの答えは?」 「ん…あぁ…。」 イルミはそう問われるまで少しほうけていた。 『嬉しかった』 そんな言葉ですら自分の胸に不思議な刺激を与えてくれる。 それは痛いものでも苦しいものでもなくとても気持ちの良いもの…。 そしてその言葉により、イルミはひとつ気づいたことがあった。 イルミはにそれを言わなければならないと感じた。 いつもの光のない憂鬱そうな瞳になにかが宿ったような気がした。 の目をまっすぐ見て話す。 「…オレも同じかな…。」 「へっ?」 はそのすっとんきょうとした声のとおり、やはりきょとんとしていた。 大きな瞳はさらに見開かれており、その後かすかにほほが赤く染まっていた。 それでもイルミはそんな様子を見つめながら、いつもの淡々とした口調で話し続けた。 「オレもが好きだってこと。」 初めてだった。イルミに「好き」だといわれたのは。 予想しなかった答え。 しかしはイルミの淡々とした口調のなかにも、強い意志と言うものを感じた。 そしてその言葉にこれ以上はないというくらいの喜びを抱き、 目元と口元を思い切り緩めてしまった。 「エヘヘ〜♪」 「なに?」 イルミは怪訝そうな感じで目の前の少女を見ていた。 (間抜けな顔…まぁいいけど。) そう思いながらずっと見続けていると、 は突然イルミに抱き着いた。 「イルミ大好き〜!!」 そのときなんともいえない心地よさが2人に流れ込んできた。 それは幸せという感覚と好きという感情。 「わかってる。」 イルミはを抱き締め返して返事をした。 2人の言葉はあたたかな雰囲気の中に溶け込んでいった。 ---こんな優しいあたたかさの中、ずっと一緒にいれたらいいね--- |