ねこ


昔、猫を飼っていた。
「レオリオ頼む!」
数年前、友人に押し付けられた小さな猫。
なんでも、今まで飼っていた猫が飼えなくなるから
俺にその猫の世話をしてほしいそうだ。
俺は適当な文句を言いつつも、しぶしぶその猫の世話を引き受けた。
最初は猫の世話なんてどうすればいいのかわからず、
ときおり暴れまわるその猫に苦しんだ。
しかしじきに慣れると、俺はすっかりその猫に愛着が湧いてしまった。
ちなみに名前はという。
(人間らしい名前だな…。もしかしてあいつの好きな女の名前とか?)

「みゃー。」
「ほいほい、メシかな?」
しばらくしてという名の猫はすっかり日常生活の一部と化していた。
食と住を共にする仲間がいるのは心地よい。
「カーテン引き裂くなよ!」
「いてっ!」
「何だ?今日は甘えんぼだな。」
まだ時折心を悩ませることは存在していたけれど、
それ以上に俺は心が充足していくのを感じていた。
「ておい、引っかくなよ。メシじゃねぇのかよ!」

その猫とはたくさんの思い出ができた。
特に…何のときだったか、俺に擦り寄ってきたときの
うれしそうな顔が印象的だった。
友人が時折する表情に似た、すごく無邪気な顔。
そのとき俺は猫の頭をなぜて、同じ笑顔で感謝の言葉を述べた。
ー、ありがとな。」

しばらくして友人が病気で死んだ。
俺はを連れて、すぐさま友人の元へ駆けつけた。
しかしそれが余計に俺のふがいなさを感じることとなってしまった。
自分が友人に何もできなかったこと。
「ち…きしょ…!」
「みゃー。」
もどことなく悲しそうな声でないていた。
俺は友人の棺の目の前に、をおろした。
「ほらよ…。」
足がつくと共に地面に軽く音が鳴った。
しかしはその場を動こうとせず、
以前の元気さが嘘のように、無言でその場に立ち尽くしていた。
俺はそんなを見て、余計に激しい感情が湧き出してくるのを感じた。
俺は衝動的にを持ち上げた。
そして強く抱きしめて―――泣いた。
が俺の涙をざらざらした舌で優しくなめていた。

その翌日は消えた。
交通事故にあったとかそういう事実はわからずじまいだが、
は俺の家からあとかたもなくいなくなっていた。
俺がどんなに駆けずり回って探してもは見つからなかった。
それから俺は際限ない悲しみと虚無感に襲われた。
きっと友人のそばへ行ったんだと思っても、強く胸が締め付けられた。

俺が医者を目指すことをきめたのはそれからだ。
死んだ友人のために、消えた猫のために
俺は誰かを救える人間になりたかった。

その後、猫と同じ名前の人間、に出会った。
「レオリオ。」
あのときと同じ笑みだった。

―うれしさと悲しさと懐かしさの入り混じった感情が俺を包み込んだ―――

「レオリオ!」

「ん………。」
どうやら眠っていたようだ。
「何だ?」
「受験勉強中に居眠りしちゃダメでしょ?よだれでてるよ。」
「えっ、マジかよ!」
寝ぼけていたせいもあって、俺はつい首や腕をあたふたとさせてしまった。
しかし俺が突っ伏していた机やテキストによだれの跡は見えず…。
「うそだよ、ヘヘッ。」
そのときはまた無邪気に笑った。
「おい!」

今はこいつ…人のと一緒にいる。
あいつの代わりとかそんなんじゃなくて
ただ、いつのまにかそばにいるのが心地よかった。
まぁ、あいつが消えてできた心の空洞を
まったくこいつで埋めていないと言えば、うそになるけど。
それはそれでいいと思った。
あいつは…猫のは友のところにいるはずだから。
俺は俺の道を歩もうと。

その中に―――がいるんだ。

「みゃー。」

---END---



あとがき

レオリオと猫、結構似合う組み合わせだと思います。
たまにはギャグでないのもありでしょう…。



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