*この話では、カルトは男の子として、ヒロインへの恋愛感情を書いております。 ゆえにカルトとラブシーンなど、嫌だと思われる方は見ないことを強くお勧めします。 試しの門をなんなく通過し、親しげに駆け寄ってくる。 「カールト!」 「。」 飛び込んできた身体を僕は当たり前のように支える。 腕の中には小さな女の子。 「会いに来ちゃった。」 「今日も元気だね。」 「イルミ兄様!」 気配もなしに現れたのは僕の長兄。 彼女はこの兄を「兄様」と呼ぶ。 僕がそう呼ぶからか、いつの間にか彼女も同じように呼ぶようになった。 「お茶でも飲むかい?新茶が入ったよ。」 「はい!」 跳ねる声に満面の笑み。 僕の胸の奥にほんの少し炎が宿る。 「美味しかったー。」 軽い足取りで地面を踏みしめる君。 まるで光のように僕の目に映し出される。 光のさえぎられるこの地でも内側から放たれる。 それが君の存在。 たまに理由もなく、拒否したくなる…そんなところもぴったりだ。 話の流れとして彼女がこんなことを言った。 「カルトは私の一番の友達だよ。」 ともだち…。 「殺し屋に友達は要らない。」 反射的に返してしまった。 それは拒絶の意を一番に示す言の葉ととれる。 たとえそんなつもりは蚊ほどなくても。 けれど、その言葉自体にうそはない。 「…じゃあ、名前なんてなくて良い。」 意外にもの顔に悲しみの色はなかった。 それどころかすべてをくんでいるような瞳をしている。 胸に手を当てて微笑む君。 「名前なんてなくてもこの気持ちは変わらない。」 名前のない気持ちなんてあやふやになってしまうのでは…? 一時心が揺らいだ。 …けれどまた、不思議と心が落ち着く。 この気持ちに名前なんてなくて良い。 僕はの両肩を掴み、そのまま僕の身体を近づけた。 君は瞬きをひとつする。 そして僕はそのきめ細やかな首筋に自らの唇をあてた。 はぴくりとも動かなかった。 「紅が取れちゃうよ。」 母親にされるがままに引かれた口紅は僕の唇を常に紅く彩る。 この色は少し好きだ…。 けれど僕は彼女にもう一度、今度はわずかに場所をずらして唇を寄せた。 顔を上げると、彼女は無遠慮に僕を見つめていた。 黒い瞳が数秒間対峙する。 それから彼女は何の合図もなしに、僕の唇に自らの唇を押し付けた。 …一瞬、めまいがした。 「一度つけてみたかったんだ。」 笑う君のほほは桜色。 僕の紅より遥かに淡い。 僕は少しあっけにとられたが、 それと同時にこみ上げるものも強く実感していた。 口の端をわずかに上げ、つぶやく。 「似合わないよ、君には。」 この、鮮血の色は…まだ。 ほんの少しむくれる君。 けれど怒っているようには見えない。 多分君は、僕の想いとは遥かに違う心を持っているのだろう。 きっともっと舞い上がる羽のような…優しい想いを。 けれど、もし君が願うのならば、僕は何度でも君にこの紅を落とすよ…? ---END--- |