触れたい


試験の日がどんどん迫る。
そのことが少しでも頭によぎると、不安の波が内側から押し寄せてくる。
なので、はこの不安を緩和するべく、
というか試験直前によくある強迫観念に追いやられて
試験勉強をしているわけだが…。
「あぁ〜もう、飽きたっ。…休憩休憩ー。」
なんと勉強を始めてから、
1時間もたたずに机に突っ伏してしまったのである。

そして机に頭をおき、ぼーっとしていると、
やがて夢の世界からの水先案内人がやってくる。
「眠気」
はそれに誘われるがまま、半開きの目をゆっくりと閉じた。

それから少し時がたったときのこと。
クラピカはが勉強している部屋のドアの前にいた。
その手には紅茶と甘酒の入ったカップと
おにぎりの入った皿が乗った、おぼんがある。
トントン。
。夜食を持ってきたぞ。」
しかし部屋の中からの返事はなかった。
不思議に思ってクラピカはもう一度目の前のドアをノックした。
しかしそれでも返事はなかった。
「…まさか。」
集中して声が聞こえていない可能性もないわけではないのだが、
の性格と勉強法を考慮するとその線は考えづらい。
(寝ているのだろうか?)
そう思ったクラピカはどうするか少し考えたあと、
もう一度ノックをした。
「入るぞ…。飲み物が冷めるしな…。」
(様子を見るくらいはいいだろう。)
そう思い、クラピカはゆっくりとドアを開けた。

ドアを開けてまず見えたのは、
机の上で片腕を枕にして、横向きに頭を預けて眠るの姿だった。
クラピカはその予想通りの姿に少しのあきれと安著を覚えた。
そしてゆっくりとに近づき、その机の端におぼんを置く。
その後、の方に顔を向けた。

その瞬間、思わず息を呑んだ。
のあまりにも無防備な寝顔。
当たり前といえば当たり前なのだろうけれど、
いざそれを目の前にするとやはり胸が高鳴る。
クラピカは目を開いたまま、少しの間固まった。

ふと、眠っている彼女の肌に触れたくなった。

クラピカの指先がゆっくりとに近づく。
かすかに震えるそれは
まるで触れてはいけないものに触れるかのよう。
そしてさらさらする前髪に指を置くと、そっと指を滑らせた。
の反応は何もなかった。
クラピカはその感触にうっとりとして
ゆっくりとあくまでも優しく、の顔、隅々に触れようとした。

前髪を掻き分けた額、眉、そして目。
まつげに触れるとはほんの少し眉をひそめ、声を漏らした。
しかしクラピカが指の動きを止めると
やがて、規則正しい寝息に戻ったので
クラピカは先ほどまでの行動を再開した。

柔らかなほほは陶磁器のように白く、
触れるのに最たる心地よさを有す。
クラピカはしばらく、そこの弾力を楽しんでいた。
しかし視線はそのほほの上にある赤い点に向く。
「ニキビ」
ストレスによるものか、栄養バランスが悪いのか。
ついそんなことを考えてしまったが、
クラピカは目を細めると、指の腹でその赤い点を軽く2〜3回なでた。
そしてそこから指をずらし、そっとそこに口付けを落とした。
―いたわりのキス――とでもいおうか。

そして鼻、あご、唇の周り、唇…。
クラピカの指がの下唇の上に乗った。
薄紅色に色づいた柔らかな唇。
それをゆっくりとなぞり、
数回なぞったところで指を唇の中心で止める。
一度軽く押した後、その弾力に従うように、クラピカは指を離した。
そして今度はその唇に自らの唇を寄せ――。

その瞬間が反射的に身を引いた。
ガタゴト、ドス!

その音にクラピカが目を見開いたまま視線を下げると
下方にはが足を放り出し、しりもちをついている姿が見えた。
「ぃ…つぅ…。」
「………………。」
クラピカは初めは驚いていたが、しばらくを眺めていると
その滑稽な状態に妙にほほえましさを感じた。
だが、顔には出さないでおこうと思った。

「………いつから気づいていた?」
は座り込んだ姿勢のまま、少しの間黙っていたが、
クラピカの問いかけによって、やがて口を開き、つぶやいた。
「……目に…触れたあたり。」
ちなみにの目線は下方へと向いており、クラピカとは合っていない。
「そうか…。」
クラピカは少し考える仕草をした。

の目はしばらく宙をさまよっていたが、
やがて、視界の端にカップを見つけると、そこに視線は定まった。
「あ。飲み物もって来てくれたんだねっ!」
動揺のさなか、なんとか気を取り戻したかった。
「のど渇いてたんだ〜。」
はカップの方へすばやく手を伸ばすと
手近にあったそれを取り、その中身を一口、かつ勢いよく飲んだ。
………中身を見る間はなかった。

「ー!…なにこれ。…あまい。」
「…あぁ、そっちは甘酒だな。
冷蔵庫に酒かすがあったから作ってみたのだ。」
「甘酒は好きじゃなかったか?」
を見るクラピカにはなぜか余裕の表情が伺えた。
「んーん、そういうことじゃなく。って言うかそれ買ったの私だし。」
「だろうな。お前くらいしか思いつかない。…では。」
クラピカは再びに近づくと、両腕を伸ばしてその身体を包み込んだ。
甘酒のせいですっかり油断していた

「続きを…。」

「はあっ!?」
「甘そうだな…。」
近づくは端正な顔。
動揺しまくるはもちろんヒロイン。
の叫びはクラピカに届いたのだろうか。
「いやっ、ちょっと、ま――!」

背中に軽い衝撃が当たるとともにの視界が切り替わった。
…その後、勉強どころではなくなったらしい。


---END---


あとがき

藤馬蘭様より11111番のリクエスト「クラピカとの甘々」ドリーム。
リクエストをいただいて「甘々って何なのだろう?」と改めて考えさせられました。
考えた結果、甘い+甘いを「触れること」+甘い物にしてみました。

ついでに、なぜ甘酒かというと家の冷蔵庫にあるんです。酒かすが。
市販の砂糖添加の甘酒って甘すぎると思いません?(これでも甘いもの好き)



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