ゾルディック家の食卓

おおよそヒロイン視点、一部別視点でお送りします。

大きなテーブルに敷き詰められた数々の料理。
それを囲むは老人から子供までの大家族。
ただ一つそれが一般家庭と違うのは…彼らは暗殺を生業とする者。
有名な暗殺一家「ゾルディック」の人間なのだ。
『いただきます。』

カチャリカチャリと食器を扱う音が鳴る。
料理を一口二口食べて、飲み物を飲んで、一息つく。
まったりとした食事タイム…だったら良かったのだが。
そうもいかないのがこの家庭だ。
「―――っ!」
キルアがせき込んでいる。
だが、これはこの家に限っては見慣れた風景。
「オォーホッホッホッ!0.1グラムで雪男を殺す毒のお味はいかが?」
キルアの様子を見て、母が高らかな声を上げる。
そんな母をキルアは苦々しい目で見る。
よくある風景、といってもこれは…。
「お母さん、これちょっと濃い。」
少し疑問に思うところがあったので、今回はあえて口出ししてみた。
「料理の味に影響が出ている。」
「そーだぜ!姉の言うとおりだ!」
私の言葉を気に、ここぞとキルアは文句を言う。
別に毒はいい。その濃度が濃くてもいい。
ただ料理の味を損ねるのは良くないと思う。
「あら…。ちゃんが言うのなら間違いないわねぇ…。」
料理の味を出したとたん、感情をあらわにしていた母がおとなしくなった。
ま、楽しい食卓風景に美味しい料理は欠かせないからね。
気付かれない程度に顔をゆがめていたお父さんとゼノじいちゃんも
その言葉を聞き、やっと表情を和らげた。

や。そういえば今日はオフじゃろう?」
食事中、ゼノじいちゃんが私に向かって話しかけてきた。
「何するんじゃ?」
そこでオフという言葉をきいてか、すかさずわが兄弟達が声をかけてきた。
「仕事手伝ってよ。」
「俺と遊ぼうぜ!」
「僕とお買い物に行きませんか…?」
上からイルミ兄、キルア、カルトの言葉。
この3つはほとんど同時に発せられたものだ。
そして3人のにらみ合いが始まる。
「そうだ。姉、今度イベントで…っ」
遅れて出したミルキの一言は他の兄弟の強い視線によってすばやく制された。
「お、おれは今度のことを言ってるんだからな!今度のイベント!
…姉貴にコスさせて連れたらすごい人気出ると思うんだよ。」
後になるほど声が弱まっていたのは、
兄弟3人が冷たい目でミルキを見ていたからだろう。
しかしその3人の視線はすぐにまた私のほうへと向いた。
期待したまなざしで。

さて、どうしようか。
…一人ずつ仕留めていきますか。
まずはイルミ兄から。
「イルミ兄〜。」
「何?」
と言って、今にも行かんばかりに腕を引くのはやめてください。
ここで弱気になったら、間違いなく強制連行が確定する。
「私、オフの日にまで仕事したくないよ。」
「いいじゃん。」
あっさりとした言葉につい歯噛みする。
そもそも仕事をしていたら、オフではない!
「イルミ兄、(一人で)お仕事がんばってね。」
にっこりと笑顔をたたえて、私はイルミ兄を突っぱねた。

次は…カルトちゃん?
そう思ったら、お母さんがすでにカルトを捕らえていた。
「カルトちゃん?お買い物ならお母さんとしましょう?」
「いや、僕はお姉様と…。」
普段は冷静なカルトも母親にはたじたじ。
おろおろと私と母親を交互に見るカルト。
ごめん。そんな綺麗な目で訴えられても、断る気だからフォローできない。
結果的にカルトは半ば強引に母親と買い物に行くことに決まった。
「たくさんお買い物しましょうね!」

ラストはキルアだ。
キルアは他の二人が脱落したのかを見てか、ますます目を輝かせていた。
「じゃあ、今日は俺とだな!」
満面の笑顔を遠慮なく私に向ける。
わが弟ながらすこしくらうそれ。
けれども世の中、そんなに都合よくは行かないんだよ?
キルアの肩を掴んで、まっすぐ目を見て話す。
「キルア、たまには一人で過ごさせてほしいな?」
キルアの表情がわずかに悲しんだまま固まる。
けれどこちらの視線ははずさない。
「ミケとでも遊んでよ。ね?」
優しく言い聞かせるように微笑む。
キルアは渋々と了承してくれた。

朝食を食べて、しばらくして。
私はキッチンにいた。
3人の誘いを全て断ったのはやりたいことがあったから。
趣味の菓子作り。
調理台の上に並べられた材料の数々。
私は気合を込めて、その材料を掴み取った。
「よし、やりますか!」



「はぁー…。」
ミケと共に森を駆けるキルア。
ペットとの楽しい散歩―のはずがキルアはため息をついていた。
「遊んでくれてもいいじゃんよ…。」
キルアは大好きな姉に誘いを断られへこんでいた。
自分の姉は無表情な兄貴やブタの兄貴とはかけ離れている。
我が家の闇を受け止めつつも、寛容でのびのびとしたそのさま。
そんながキルアには輝いて見える。
そんなこと決して口には出さないけれど、キルアは姉が一番大好きだ。

ふと、笑顔の姉の顔が思い浮かんだ。
キルアはそれを振り切るように走るスピードを上げた。
しかしその行動は反射的にすぐに止まった。
「キルアー!」
姉の声が聞こえる。



森をかけてしばらく、私はやっと捜し求めていた人物を見つけた。
「キルア!」
「姉貴…。」
私を見て、キルアは戸惑ったような顔をしている。
断ったのが尾を引いているのだろうか。
しかしそれは、今は無下に触れるべきことではないと判断したため
私はかまわずに用件を話し出した。
「差し入れもってきたよ♪」
かさこそと手に持っている物の紙包みをはがす。
ふわりとそこから甘い匂いが漂う。

「かわいい弟に一番に食べてもらおうと思って。」

キルアの目がきらりと輝く。
「弟って…よく兄貴にかぎつけられなかったな。」
一番という言葉にわずかに笑うキルア。
兄貴というのはこの場合はミルキのみにかかる。
「ん。ミルキはお気に入りのアニメ鑑賞中みたいでさ。」
それにね。もう一つ理由があるんだよ。
「じゃあ、いただきまーす。」
遠慮なく菓子をつかんでぱくりと一口。
一瞬、キルアの動きが止まった。
「うまーっ!」
菓子をほおばったまま、満面の笑顔を見せるキルア。
それを見ていると、自分の顔も遠慮なく緩む。
甘い物を食べさせるならキルアが一番。

そう、この笑顔が格別なのだ。

夕食時にはキルアびいきをしたことがあっさりとばれた。
皆に菓子を差し出したときに、
キルアが先に食べたことがわかる言葉を発したからだ。



それを聞いた皆。
今、その中の二人と私は向き合っている。
黒いオーラを発しながら私を見つめるイルミ兄とカルト。
。仕事で疲れている俺にマッサージしてよ。」
イルミ兄…。
それならまず仕事で疲れているお父さんやゼノじいちゃんにすべきかと。
この感じだと、今度一緒に仕事するときは間違いなくこき使われそうだ…。

そして美兄弟その2。
お姉様。僕と一緒にお風呂に入りませんか?」
カルトちゃんまで!
確かに、カルトくらいの年齢なら、
まだお母さんとお風呂に入ってるという子もいるだろうけど。
カルトちゃん、いつもはもっと大人びているのに!
美しい顔二つに迫られるプレッシャーを横に、
たった一つの癒しとなるのは、満足そうに笑うキルアだった。

しかし、私ら3人はすでに他から放置状態。
私は表では苦笑いしながら、心の中で流れる涙をぬぐった。
2人とも怖いよ。


---END---


あとがき

リンカ様より82000のリクエスト「(ゾルディック)逆ハーでキルア勝ち」です。
多分(え)。イルミ、キルア、カルトは押さえた…はず。

リクエストありがとうございます。




戻る    最初に戻る