駅前での待ち合わせ。 心に想う人を目にすると、お互いに笑みがこぼれた。 「クラピカ!」 「あぁ、久しぶりだな。」 今日はお互いにオフのため、二人で過ごそうと予定を立てた。 二人の関係は恋人同士―――といっても、 以前共にいたときにやっと友人から恋人へとなったばかり。 つまりこれが恋人同士としての初のデートとなる。 ガタンゴトン…。 揺れる電車の中、窓の外を眺めたり、相手を横目で見たり。 少しそわそわするけれど、目が合えば自然に笑いあってしまう。 (きれいだな。) (見られてる?) 見惚れる少女と照れる少年。 とある駅に着いた後、男女の二人組が乗り込んできた。 「だーりんっv」 「ハニィーv」 いちゃいちゃ、べたべた。 いわゆるバカップルである。 人目もはばからずべたべたとくっつく様子に クラピカは普段なら嘆かわしいと思うのだろう。 けれど、二人はまだカップルになったばかり。 だから、気持ちとしてはやや複雑というところ。 その直後、不意にの体がクラピカの胸に倒れこんできた。 「どうした?」 あのカップルの毒気にやられたのかもしれない。 そんなことが頭によぎりつつも、クラピカはの顔を覗き込んだ。 「こ、こんでくるかも…。」 少しほほを染め、つぶやいた。 「あ…あ、そうだな…。」 ぽっとクラピカのほほが朱に染まる。 別に車内がこみそうな様子はないと思ったから。 ただ、触れ合っている。 相手の感触を身をもって知る。 その事実が熱を浮かせ、鼓動を速くさせる。 「あ、ついたよ。」 そして―些細にも、離れることを惜しませる。 電車を降りて、道端を二人歩く。 隣で歩くもその距離はいつもと変わらない。 意識しなければなんてないこと。…意識すれば微妙な距離。 「そうなのか。」 「うん。でね…。」 他愛ない会話に今までとの違いはあろうか。 いや、表面上には見えずとも、その中はいつもと違うのであろう。 楽しさ+相手を想うがゆえの緊張、そして幸せという気持ち。 本当はただ共にいられればそれで充分なのに。 二人、赤信号で立ち止まった。 その信号は地元民ならご存知の「変わらずの信号」。 道路の都合上、赤信号の時間が長いと有名らしい。 それを知らない二人は信号に気をとられ、しばらくの間無心になった。 車の走る音だけが耳につく。 (変わらんな。) ふと、クラピカは隣にいる彼女がきになった。 やはり自分と同じように退屈に感じているのだろうか。 そこでが振り向いた。 刹那、わずかに触れ合った指先。 それはあまりにも偶然過ぎて、はじかれたようにまたすぐに離れる。 軽く心臓がはねた直後、と一瞬目が合った。 しかし、その視線は二人とも無意識のうちにお互いをはずしてしまう。 些細なことだけれど、わずかに悔しいと思う。 だからクラピカは今度は自分から手を近づけて、 わずかに反応したの手を確かめるように握り締めた。 無抵抗ながらもの熱は上がっていく。 いや、それはクラピカも同じこと。 意識するのはお互いのみに。 ゆえに二人はしばらく信号を見ることを忘れていた。 二人共にいるのなら、長い信号待ちですら幸せだと思う。 あぁ、こんな話を他の人にしたら、のろけてると呆れられるのだろうか。 +END+ |