12時の鐘が鳴る。 それを合図に子供たちは、わいわい騒ぎながら教室へ集まっていった。 給食の時間今日のメニューはカレーライスとサラダ、そしてみかんゼリー。子供たちにとっては結構な人気メニューである。 料理をよそった器を子供たちは懸命に運ぶ。 それは誰が見てもほほえましい様子。 けれど、そんな子供たちの行動がいつもほほえましいのかといえば、 それはそうとは限らない。 だからこそ人は人に惹かれるのかもしれないが。 いたずらっこキルアくん。 彼がちゃんのみかんゼリーを取った。 「あっ、キルアくん…。」 見上げるちゃん。 その先でキルアくんは得意げな表情をする。 「俺が食ってやるよ。」 「だめーっ!」 声高に叫び、手を伸ばすちゃん。 しかし、わずかに身長が低いせいか、みかんゼリーを取り戻すことができない。 「かえしてよ…。」 そんなちゃんに救いの戦士がやってきた! 「こらぁ!キルアー!!」 まじめ少年クラピカくんだ。 「んがっ。」 突然怒鳴られたのでキルアくんの首がかくんとなった。 「人のものを取っちゃだめなのだよ!」 「こいつ食うのおそいから手伝ってやってんだよ。」 あくまでも我を崩さないキルアくんにクラピカくんの怒りはあがる。 「彼女はそんなこと望んではいない!」 怒鳴りつけるクラピカくんにキルアくんもだんだんと不機嫌になっていく。 「…ぁんだよ。」 二人の少年はいつの間にやら強くにらみあっていた。 おろおろ。 そんな二人を見つめるちゃん。 一触即発の雰囲気に不安いっぱい。 だが、ここでクラピカくんははっとした。 ぱたぱたと自分の机まで走るクラピカくん。 そして彼は自分の机の上にあったみかんゼリーを両手で包むと、 そのまま、ちゃんの方へ走っていった。 「私のゼリーをあげるのだよ。」 ちゃんの前に立って、両手を差し出す。 ほんのりほっぺが赤い君。 「…でも、クラピカくんのがなくなっちゃうよ。」 「私なら大丈夫なのだよ。」 「?」 不思議そうに顔を上げるちゃん。 クラピカくんは満面の笑みを見せた。 「奴から取り戻して見せるからな!」 そう宣言するクラピカくんの瞳はめらめらと燃えていた。 そしてまた二人にらみ合う。 「こいつら相変わらずだなぁ…。」 「レオリオせんせい。」 レオリオ先生はちゃんに笑いかけると、 やがて取っ組み合いになりだした二人を見てつぶやいた。 「まさに犬猿の仲って奴だな。」 「けんえん?」 きょとんとするちゃんにレオリオ先生はかがんで、目の高さを合わせた。 「犬と猿のことだ。」 「犬さんと猿さん?…仲悪いの?」 「…っていうか…。」 レオリオ先生は少し考えた後、やわらかく笑んだ。 「お互い仲良くなるのが苦手なんだよ。本当は仲良くしたいのにさ。」 「どうすれば仲良くなるの?」 「そうだなぁ…。」 純粋な瞳を無遠慮に向ける少女にレオリオ先生はさらに目を細めた。 「ちゃんが本気でみんな仲良くって願うなら…叶うんじゃねーの?」 優しくちゃんの頭に置かれた…大きな手。 「返せ…このっ!」 「やだね…っ!」 小さな身体が力いっぱいにうごめく。 互いに譲らない攻防。 それは子供のケンカといえど真剣そのもの。 ちゃんはそんな二人のもとに足を向けた。 息を吸って、はいて、前を見据える。 その直後なぜかちゃんは気合を入れて二人にぶつかってきた。 「なんで…(いや、女っていざと言うときは強いんだよな…)。」 レオリオ先生があきれ顔でつぶやいた。 地面に身体を打ちつけられた少年二人。 しかし彼らはその事実よりも、 ちゃんが自分たちのもとに飛び込んできたことに驚いた。 飛び込んだ拍子にちゃんの髪は少し乱れてしまった。 けれどちゃんはそれにかわまずに二人の手首を引いた。 どきりとする少年二人。 そしてちゃんはそのまま二人の手が合わさるように そっと自分の目の前にその手を寄せた。 『!』 びくっとする二人。 けれど彼女はその腕をさらに握り締めて、 小首をかしげてお願いをした。 「仲良くしよう?」 「おぅ…。」「あぁ…。」 結果、二人の顔は朱に染まり、そして静かにゆっくりとうなずいた。 ―好きな人には年齢変わらず弱いものです。 事態が落ち着いてからレオリオ先生は、にやけながらキルアくんに寄っていった。 「よぉ、お前な。好きな子いじめるってのはガキにありがちだけどな。 あんまやりすぎると嫌われんぜ?」 「何だよ、おっさん。」 むっとした顔で先生を見上げるキルアくん。 だが、レオリオ先生の優位は変わらない。 「いいのか?あの年頃はまだまだ素直だからな…クラピカにとられちまうぜ?」 「――!」 目を見開くキルアくん。 その瞬間、レオリオ先生の腹に見事なボディブローが入った。 「ぐはぁっ!」 そのころちゃんはとても幸せそうな顔で みかんゼリーを口に運んでいた。 (おいしい…。) まさに天国と地獄。 ---おわり--- |