憧れの方


私、と申します。
長いお耳が特徴の女の子です!
私達の仕事は主に狩りをすること――食料をとってくるのですね。
「ヒト」という生物を狩るのですが、これがあまり楽なこととはいえません。
大体は速やかにしとめれば良いのですが、
ヒトによっては、のどが張り裂けんばかりに泣いたり、
抵抗したり、自尊心を捨て、命乞いする者もいます。
それも言葉を介するから、なおさら神経に響きます。

…ってお仕事の愚痴はこれくらいにして。
こんな私でも幸せな時間はあるし、憧れの方だっているんですよ!
憧れの方はですね。端正な容姿に、誰よりも強いオーラを持っている。
私達の支配者たるにふさわしい方。
「名は体を現す」がこれほどまでに当てはまる方もいないでしょう。
知ってます?あの方の名前にはこんな意味が含まれているんです。
「美しい」って。

そして、幸せな時間とは、狩りが終わったあとの睡眠時間。
それも特に…お昼寝の時間。ノルマは早めに終わらせて、
干草の布団をたっぷり敷いて、その上にうずもれるの。
草と太陽の香りが一面にあって、とても良い気持ちで眠れるんです。
ほんと、とっても…。




スー…スー…。

しばらくして徐々に意識が戻り始める。
はぼやけた意識のまま、少しだけ目を開けた。
あ、れ?
の目に映るのは明らかに部屋の景色と違う影。
しかもこの感じは………。
意識が波が引くように覚醒する。
驚きつつもは今度はしっかりと目を開けた。
そこには、やはり端正な顔が存在した。

――― ネフェルピトー様! ――――

「ぃ、ぁ、ぅ…。」
え。いったい。何で。
は数秒固まった後、反射的にそれから離れるように身体を転がした。
大きな目でを見るネフェルピトー。
その存在を認識すると、はかえるのように飛び起きた。
「何をなさってるんですか!」
「え〜。」
ネフェルピトーは悪びれもせずに返事した。

「観察♪」

スイッチが入ったかのようにのほほが朱に染まった。
「な、何で私など…。」
「ん〜、そこにいたから?」
間の抜けた声が出そうになった。
それは何とか抑えるも、正直頭の中は混乱が結構な割合を占めていた。
(何も気配と音をお消しにならなくても…!)

座って会話する二人。
ネフェルピトーはあぐらをかいて、
は姿勢を正して一生懸命目の前の相手に対応しようとする。
「で、ご用件は何でしょうか?」
「用件なんてないにゃ。」
「(うっ…)ならばなぜ…」
ここでの言葉が止まった。

「ここにいらっしゃるのですか?」と聞けば失礼に当たるでしょうか。
軍団長たるものがいてよくないところなど、
女王のご機嫌を損ねる場合以外に何がありましょう。
しかし、憧れの方を目の前にして、このままでいるのは耐え切れません。
私から立ち去るのはそれはそれで失礼でしょうし…。


ふと、目をそらすと、数十メートル先にコルトの姿が見えた。
の耳がぴょこんと跳ねる。
(コルト様なら先ほど用件があったようですし、助けてくれるかも!)
眠っている途中にコルトは一度のそばに来た。
あのときコルトは、眠るを起こさなかったため、
たいした用ではないのだろうと判断した。
しかしこの際利用しない手はない。
ゆえには目でこの状況の打破をコルトに訴えてみた。
(コルト様ー!)
だが、コルトと目が合った瞬間、
コルトはわずかに目を見開いた後、速やかにの視界から消えうせた。
(何で!?)
結局のところ、二人きりなのは変わらない。

その直後のこと。
は不意に妙な感覚を感じた。
はっとして、意識をネフェルピトーに戻す。
目に付いたのはネフェルピトーの手。
…ほほをつままれている。
「何を…」
正面を向くと、もう片方のほほもつままれた。
おのずと言葉がとめられた。

つまんだり、指で押したり、引っ張ったり。
何も言わずにのほほをもてあそぶネフェルピトー。
(遊んでいるんだ…)
あきれと悲しみが胸を覆う。
しかしそれでも心臓の拍動は大きいままで、それが余計に悲しさを呼ぶ。
(早く解放を…)
はそれだけを頭の中で繰り返した。

少ししてネフェルピトーの手の動きが止まった。
だが、その手はのほほから離れたわけではなく、
まだそこにぴったりとくっついている。
ぴったりと、手のひらで両ほほを包んでいる。
(ん…?)

少し違和感を感じた。
けれど、あまりにも端正な顔が近くにあるため、
はそちらに意識をとられた。
きれい…です…。大きな目に私が映っていて…。
近づいて…く…。

――ん。

そのまま二人の唇は合わさった。

はしばし呆けたが、唇が離れるとまたすぐに混乱しだした。
(これは一体何ですのーーー!)
顔は熱いし、心臓は壊れそうなくらい暴れている。
あの方は私に何をなさったというのか。
あぁダメだ。身体も心も熱すぎる。

「これね、ニンゲンの言葉で「キス」とか「ちゅー」とか言うんだって。」
「一体…何の意味が…」
振り絞るように出した言葉に対し、ネフェルピトーはあっけらかんと答えた。

「アイジョウヒョウゲン?」

笑い出すネフェルピトーの目の前で、の意識は思い切り飛んだ―――


♪おわり♪



あとがき

コルト「ネフェルピトー殿はのことを好いているのだろうか…(ため息)。」
クク様より68686のリクエスト「ネフェルピトー夢」初挑戦です。
ヒロインが人間のものは難しいと思っているので、キメラアントにしてみました。
テーマは「ネフェルピトーに懐かれたい。」
…ヒロインのキャラはともかく、ネフェルピトーと終わり方についてはごめんなさい。
リクエスト、ありがとうございます。



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