クラピカがボディガードの仕事についてから、 私達が会う回数は減ってしまった。 だからこそ私は、クラピカに会うときには、その姿、 そのときの思い出を、頭の中に懸命に焼き付けようと思う。 「ねぇねぇね、どっちの服が似合うと思う?」 二つの服をつかんで、遊びに来たレオリオの前に突き出す。 「どちらでも似合うんじゃないか。」 そういう答えを求めているんじゃないんだけど。 そう思い、私はわずかに口を尖らせた。 「…そう?」 「あぁ。」 「本当に?」 「あぁ。」 「ほんとにほんと?」 「………。」 あ、レオリオがいらついてきた。 でも、こちらはいたって真剣だ。 「どちらでも似合うつってんだろ!」 レオリオが突然声を張り上げたので、私は目を丸くした。 「大体クラピカなら、お前が何着てようが快く迎えるだろうが。」 「でも、できるだけ良い格好したいじゃん。」 それが女と言うものです。 「あ〜。」 頭をかいて複雑そうな表情をするレオリオ。 だが、その表情はやがて別のものへと変わった。 「ちょっと耳貸せ。」 何かを思いついたように、私に話しかけるレオリオ。 「ようはクラピカを喜ばせたいんだろ?」 「うん。」 「なら、いいこと教えてやる。」 そういい、レオリオは私に耳打ちをした。 これは私がクラピカに会う、前の日のことである。 「クラピカ!」 弾んだ声に喜びの表情をたたえて、私はクラピカのもとへ駆け出した。 「。…久しぶりだな。」 クラピカもこちらを見ると、すぐに私を笑顔で受け入れてくれた。 前々から思っていたけれど、本当に綺麗な人。 こうして目の前にすると、今にもこの想いが破裂してしまいそうだ。 そして優しい。 二人、道端にてさりげなく手を取って歩く。 あつい。 手からまた熱が生まれてきて、あつい。 クラピカの顔を見ると、彼はほんの少し照れくさそうに微笑んでくれた。 やがて家へと着く。 リビングに到着し、私たちは荷物を下ろして、座り込んだ。 そして私はお茶を用意するために、早足で台所にかけた。 クラピカによく似合う紅茶とあらかじめ焼いておいたクッキー。 「召し上がれ。」 「あぁ、ありがたくいただく。」 食器のぶつかる音がわずかに鳴る。 香りの良い紅茶とクッキー、目の前にはクラピカ。 似合いすぎだ。 雰囲気も相成ってか、つい、うっとりとしてしまう。 「うまいな。」 「え。」 「紅茶とクッキー。、腕を上げたな。」 あぁ、顔が緩む。 ティータイムがすみ、そのままくつろぐ私達。 良い雰囲気だとは思う。 けれど、これだけじゃ足りない。 クラピカのことを私の記憶に焼き付けるんだ。 もっと、もっと。 そして私のこともあなたの記憶に、深く…深く刻みたい。 「クラピカ。」 さりげなく上着を脱いで、私はゆっくりとクラピカに近づいた。 ちなみに今の上半身は肩の出た姿だ。 「ねぇ…。」 うっとりとした目で、自分なりに色気を入れた声でささやく。 「な、何だ?」 動揺交じりのクラピカの声。 それすらも愛しい。 上目遣いに半開きの唇。 たまにその唇を触り、最後にゆっくりと手を伸ばして絡みつく。 クラピカの顔がおのずと赤らむ。 だが、そんな妖しい色の世界はいつまでも繰り広げてはいられない。 「一体どこでそんなことを覚えてきたんだ!?」 「レオリオが言ってた。」 …………。 「男なんて肌見せて誘惑されれば弱いもんよ。」 「誘惑って…。」 「それが好きな女ならなおさらだぜ?クラピカも男だ。喜ぶに違いあるまい!」 「なるほど…。」 「にしても…俺も彼女ほしー!」 「レオリオか…。」 クラピカは複雑な表情をたたえながらレオリオの名をつぶやいた。 (おそらく私のためにやったのだろう。うれしくないといえばうそになるが、 レオリオめ…妙なことを吹き込むんじゃない…!) 私は先ほどまでの雰囲気を取り払ってから、そっとクラピカを見た。 後ずさりしていつの間にかしりもちをついていたクラピカ。 そのために上を向けば、クラピカの顔が思い切り近くにあることを自覚する。 どきどきする…。 その数秒後、クラピカと目が合った。 「あ…。」 「…。」 見詰め合う二人は、お互いしか見えていない。 これぞ私の求めていたもの。 何も言わずとも、通じ合える雰囲気。 今はどんなことがあっても、あなたから離れずに、ここにいよう。 クラピカの腕がゆっくりと動く。 そして、私の顔はクラピカの胸へと沈む。 クラピカはその手を私の背中に回して、軽く力を込めた。 「こうしてお前と一緒にいるときが一番幸せだ…。」 「私も…。」 ――甘い香りがいっぱいにたちこめた――― そのままの体勢にて。 (口…付け、したい…) (いっそ押し倒(以下略)) ---END--- |