部分的な孤独


3月。空気の冷たさが和らぎ、色とりどりの花が咲き始める頃。
クラピカに一本の電話がかかった。
相手は。内容は…。
「来月ってクラピカの誕生日があるでしょ?何か欲しいものとかない?」
はどうやら、クラピカに誕生日プレゼントを贈りたいらしい。
クラピカはその気遣いに対し、電話口で柔らかな笑みを浮かべた。

「そうだな…海が見たいな。」
「…海?」
は「欲しいもの」と尋ねたはずなのに、
明らかに的のずれた言葉が出てきたので、不思議に思った。
「あぁ。私の出身地は海がなくてな…。」
「別にいいけど…。」
(クラピカって海見たことあるよねぇ…?)
はそう思ったけれど、それを尋ねることはしなかった。
「では、4月のオフに会おう。…楽しみにしてる。」
「うん。じゃあ、またね。」
そしては電話を切った。

その直後、ゴンがのところによってきた。
、誰と電話してたの?」
「クラピカ。」
「えー!俺にもかわってくれたらよかったのにー!」
「ごめんごめん、忘れてた。」
「ところで、何の話してたの?」
「ん、クラピカの誕生日プレゼントをきいたらね、「海に行きたい」って。」
「へぇー。」

との話が終わり別れた後、
ゴンが走りついた先にはキルアとレオリオがいた。
「きいてきたよ!」
「よし。で、どうだった?」
「あのね、4月○日に○○浜に行くんだって。」
「おー、ゴンにしちゃうまくきけてるじゃねぇか。」
「えへへー。」
「せっかくのデートだからなー。しっかり見てやんなきゃな(ニヤリ)。」
「ゴン、お前も後学のためにしっかり見とけよ。」
「うん!」
こうして盛り上がりの良い中、デバガメ隊が結成された。

柔らかな温度の風が顔に当たる。
潮風、海の香りと波の音が優しい気持ちを募らせる。
二人は防波堤に立っていた。
しばらく何もせずにただ立ち尽くす。
今の海を堪能するように目で、耳で、肌で周り全てを感じる。
すると、何もしゃべらずともおのずと良い雰囲気が流れる…。

こんな静かな雰囲気の中、一方、デバガメ隊はそのすぐ近くに隠れていた。
「なかなかいい雰囲気でないの。」
「そうだね。」
「でもよー、刺激が足りなくね?」
ホクホク顔のレオリオ、少し不服そうなキルア、
言われたとおりしっかりと見ているゴン。
三人とも思い思いに二人の様子を観察していた。
「おっ。」

一人がそんな声をあげたのを機に見ると、
まっすぐ海を見ているクラピカの横ではクラピカに顔を向けていた。
しかしそのときのはなんとも切なそうな顔をしていた。
いや、これはおそらくクラピカが先に、 そのような表情をしていたからだろう。
はそれを見たのだ。
それから少しの沈黙の後、は口を開いた。
「ねぇ、クラピカはなぜ海が見たいといったの?」
クラピカが自分の方に振り向いた後、は話し続けた。
「海、見たことあるよね…?」
海が好きとか言いたくないとかならそれでいいんだけど。
そう付け足したのは彼女の気遣いだろう。
「あぁ、それはだな…」

クラピカは海を見ながら同胞のことを思い出していた。
山奥の小さな村。クルタ族の住む地。
同じ民族同士、大変仲が良くて、色々なことを話し合った。
その一つ。
ここは海が遠くて、長旅でもしないと海まで辿り着けない。
海は私達にとって憧れだった。
だから、いつかともに海を見ようと同胞と約束した。
けれど、その約束は叶わなかった。
それからクラピカは力をつけるために旅をすることを決めた。
その途中、初めて海を見たとき、苦しさに胸が締め付けられた。
一人で見た、海―――

ぎゅうっ…。
クラピカの胸が締め付けられる―――
(…あ………。)
と同時に、はクラピカを抱きしめていた。

(おぉ!)
デバガメ隊も瞬時にヒートアップした。

「一人じゃ…ないよ…。」
かすれそうな声―――。
の表情はクラピカの身体に隠れて見えない。
クラピカの目は抱きしめられた瞬間は見開かれていたが、
少しの間にまた切なげなものに変わった。
「大丈…夫だ。」
そう声を出すと、クラピカは抱きしめられたの手の上に
そっと自分の手を置き、わずかに笑みを形作った。
表情と感情はときに裏腹なのだけれども。
「わかってる…から。」
もう一人じゃない、そんなことはとうにわかっている。
だけれども、どこか心の隙間に風が吹くような気がする…。
いつかその隙間から全てが侵食されてしまうのではないかと――思う。
「ごめん…。」
はわずかに顔を落とし、そうつぶやいた。
「いや、いい…。」

がクラピカからそっと身体を離して。
海を見ていたら、クラピカが突然妙な一言を発した。
「さてと…もう良いだろうか?」
「何が?」
はきょとんとした顔でそう問うた。
クラピカは声を張り上げた。

「そこにいる奴ら、もうそろそろ出てきたらどうだ。」

鎖の擦れる音がチャリ…と鳴った。

(ぎくっ)
デバガメ隊は少し硬直した後、お互いの目をそれぞれ見回した。
そしてそのうちの一人があきらめの表情でうなずくと、
三人はぞろぞろと二人の前に姿を現した。
「い、いやなぁ……俺たち潮干狩りに来たんだよ!」
「そっ、そうなんだ!」
「あのね、キルア、潮干狩り初めてなんだよ!」
口々に言い訳を発する3人に対し、
クラピカは冷ややかな目で3人を見つめていた。
「オッサンの絶が下手くそだからだろ!」
「なっ…!」
キルアがこそこそとレオリオに文句を言っていた。

「ねぇ、クラピカ。俺、大したこと出来ないけど、クラピカは友達だから。」
「あんま、しんみりすんなよ。」
「そうだぜ。俺らはもっとお熱いのを見に来た…」
ボカッ!
「いてっ!オッサン何すんだよ!」
並ぶ言葉に3人の性格が見え隠れする。
それにおのずと笑みが浮かぶクラピカ。
も微笑む。
「クラピカ、せっかくだから貝も探してみようか。」
「あぁ、そうだな。」
穏やかな笑みを浮かべながら話す二人にキルアは
「なーんか通じ合ってるよなぁ」なんて思ったとか。


---END---


あとがき

?!さんより22222のリクエスト「クラピカドリーム」
かなり好き勝手に書かせていただきました。

少数民族の住む地は「山奥」というイメージ。だから海はないかなと思いました。
失われた同胞は心の中から決して消してはいけない存在。
だからそう簡単にそのことは晴らせない…。
仲間がいて、一人でなくとも、どこか孤独な部分があるのかもしれない。
けれど、大丈夫だから。そんな感じです。

?!さん、リクエストありがとうございます!


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