ある二人きりのひと時


休日、昼下がり、まどろみの午後。
の元へクラピカがやってきた。
その手には本を持っている。
、ちょっといいか?」
そう呼んで、クラピカはを手招きした。
「ん?」
がまっすぐクラピカのところへ歩むと、
クラピカはそれを見て、柔らかな笑みを浮かべた。
クラピカは少しの間、を見つめた。
そしてそれを素直に見つめ返す
おのずと桜色の雰囲気が流れる。
クラピカがの華奢な両肩をつかむと、
かすかにその身体が跳ねた。
「クラピカ…?」
しかしそれ以上二人が見つめ合うことはなく、
クラピカは手の力を緩めると、に反対側を向くように促した。

(?)
はその行動の意図がつかめなかったが、
とりあえずは素直に促されるままにした。
クラピカに後ろを向いて座らされると、
クラピカはの真後ろに座り、その足を前方、の身体の横に出した。
腕は本を持ったまま、の身体を覆うような体勢。
その体勢が安定したときに、は口を挟んだ。
「…何?」
「…こうしてみたくって。」
「ふぅん。」
はごく短い返事で、あっさりとそれを受け入れた。
この二人、実は恋人同士だったりする。

はしばらくボーっとしていた。
クラピカは本を読みつつも、ときおりを見ていた。
後ろ髪に隠されたうなじ、その髪をかき上げてみたくてたまらない。
しかし手はふさがっている。
クラピカはそう思うと、 引き寄せられるようにの頭に顔を近づけた。
かすかに漂うよい香りとくすぐったいような感覚。
その髪に顔をうずめると酔ってしまいそうだ、なんて思う。
はやっぱりボーっとしていた。

しかしそのままではやはり退屈。
は一つ息を吸いながら、
クラピカの胸に背中を倒して、もたれてみた。
程よく筋肉の付いた胸は、やわらかすぎず硬すぎずちょうどいい感触。
はそのまま遠目でクラピカが持つ本を見つめてみた。
(んー…)
「難しいねー。」
「ん?何がだ?」
「本。内容がね、私にはさっぱり。」
「そうか。」
話しながらも、クラピカの目線はまっすぐ本に向いていた。
すぐ近くにクラピカの顔があるのに、なんとなく動けない。

の目がだんだんとうつろになってきた。
穏やかな空気、じっとしているとやがて眠くなる。
それにぬくもりとクラピカの鼓動がかすかに伝わるのも心地良い。
はその心地よさに身を寄せるとゆっくりと目を閉じた。
少しだけ上向いていた顔は、目を閉じるとともにゆっくりと下がっていった。

「……………。」
クラピカは自分の胸の中で眠るを横から覗き込んでいた。
本を読むのがひと段落し、集中していた心を緩めると
クラピカはが眠る体勢に入っていることに気づいた。
(寝た…のか?)
顔を寄せても、試しにすり寄ってみてもの反応はない。
クラピカはこれをどうしようかとしばし考えた。

クラピカは、うつむいたの頭にそっと顔を寄せ、
軽く抱きしめてから、本を閉じて、を抱え上げた。
(運んでやるか…。)
ぐっすりと眠るを、 抱きかかえながら歩くクラピカ。
の顔を見るその顔には自然と笑みが浮かんでいた。
優しい優しい表情――。

日差しが窓から差し込む。
やわらかいベッドにを下ろすと反動で空気が舞い上がった。
そこから、お日様のにおいがした。
眠るの前髪を上げて、その額に口付けを一つ。
「夕方には起こしてやるか…。」
微笑むクラピカと穏やかに眠る
柔らかな光の中、ゆったりとした時が刻まれていた。


---END---


あとがき

黒部雅人様より17000のリクエスト「クラピカの甘甘ドリーム」
「甘甘」前のリクエストはやりすぎた感がありますが、がんばりました!
甘い…ですよね?…あ、書いてから気づきましたが、
またヒロインさん眠ってます。春眠暁を覚えずですね〜。
リクエスト、ありがとうございます。



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